本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

大本営参謀の逃亡記録 『潜行三千里』感想

 こんにちは。

 先日こちらで記事にした1950年のベストセラーランキングにおいてランクインしていた『潜行三千里』を読みました。太平洋戦争真っ只中という時代に大本営の参謀を務めた人物が書いた戦記というかなりの異色作で、ランキングを見たときから気になっていました。

 ストーリーがある内容ではないのですが、一応ネタバレなしの方針で書いていきたいと思います。

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Michal JarmolukによるPixabayからの画像

〇どんな本?

 『潜行三千里』は大本営参謀・辻政信が、敗戦後の逃走・潜伏期間について書いた記録をまとめたものです。

 辻は作戦の神様と呼ばれ、ノモンハン事件やマレー作戦などの作戦立案を行いました。海外逃亡後に日本に戻って国会議員となりますが、1961年にラオスで行方不明となっています。

 新書版では、新たに公開された文章「我等は何故敗けたか」を収録しています。

 

〇あらすじ

 終戦間際、イタリアとドイツが降伏し、日本も追い詰められていた。タイで終戦を迎えた辻は、戦犯として処刑されるよりは再建する日本のための力になろうと身を隠すことを選択。地獄へと続く潜行三千里が始まる。僧侶、華僑、医者と身分を偽りながら、イギリス軍の包囲をかわしてベトナム、中国と逃避行を続ける。

 

〇ここが面白い!

 現在の視点で読むとかなりキツイ印象です。

 軍国主義に染まっていて独善的な考えが多い点はいったん置いておきます。

 まず文章的にかなり読みにくいです。仮名遣いなどは直されていますが、主語が省略されている部分が多いです。おそらく一般向けにかいたわけではないのでしょう。逆にそういった文体に時代を感じることもできますし、凝った言い回しをする部分も多いのが本作の特徴とも言えます。

 潜伏記としても正直いまいちでした。イギリス軍に見つかりそうになって自殺を偽装したり、医者に化けたことで重病人が運ばれてくるようになって苦労したりと、読んでいて面白そうな部分はありました。しかし割とあっさりと危機を逃れてしまう場面も多く、スリルある展開に期待しすぎると拍子抜けしてしまいます。

 ですが、なんだかんだ現地の人の手を借りながら潜伏を続けているところを見ると世渡りのうまい人だったのだろうとも感じます。何度も信頼が大事だと語っており、根っからの極悪人というわけでもなさそうでした。戦争の指導をしていたのも同じ人間だったのかと考えさせられました。

 一方で当時の海外情勢を知る旅行記としてみる分にはいいと思います。当時のタイでの治安の悪さやベトナムの困窮ぶりを庶民の視点から知ることができます。華僑による経済支配について考察している部分もあり、その国の内情についてかなり詳しく書かれています。

 新書版で追加された「我等は何故敗けたか」では、日本が敗北した理由を8つほど挙げています。そもそも時勢が読めていなかった点、工業化などの準備も足りなかった点を挙げており、劣勢を分かっていながら戦争に向かわざるを得なかったとしています。食料自給率の低さや政治腐敗、国民の楽観的な姿勢は、現在の日本でも変わらない気がしました。

 歴史から学ぶことは難しいのだなと改めて思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。