本をめぐる冒険

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有名な俗説を本気で考察する歴史ミステリー『成吉思汗の秘密』紹介

 こんにちは。

 今年5月29日には日本競馬界でも最も特別なレース・日本ダービーが開催されます。今月はそれにちなみ、『』まつわる本を読んでいきたいと思います。

 1994年の第61回日本ダービーを勝利したのはナリタブライアンでした。「シャドーロールの怪物」と評されるほどの圧倒的な素質を持ち、史上5頭目三冠馬となります。三冠で他馬に引き離した距離の合計は15馬身と言われています。半兄には、同じくパシフィカスを母に持つ前年の菊花賞ビワハヤヒデがおり、兄弟対決が期待されましたが、兄の引退により結局実現することはありませんでした。

 さて、今回紹介するのは、高木彬光さんの『成吉思汗の秘密』です。「頼朝に追われ自害した源義経が、大陸に渡って成吉思汗になった」という仮説に挑む歴史ミステリーです。馬とは違い、頼朝と義経は腹違いの兄弟になります。義経といえば「鵯越の逆落とし」で馬で崖を駆け下りて奇襲をかけていますし、チンギス・ハンといえば世界最大の騎馬帝国を築いた英雄なので、一応馬に関係していると言えなくはないかな?

 ミステリー作品なのでネタバレには注意して書いていきます。

 

 

〇あらすじ

 法医学教室助教授にして名探偵の神津恭介は急性盲腸炎により入院中。退屈しのぎとして、「源義経が成吉思汗になった」という有名な歴史上の俗説を検証することになる。

 

〇この馬がすごい?

 初めに書くと、本作に馬は出てこないです。

 出てくるのは800年以上前の二人の英雄です。一人は源義経源平合戦で実際に平家と戦って滅ぼしましたが、兄である頼朝に追い詰められ、奥州にて自害しました。数々の武勇伝や牛若丸時代の弁慶との出会い、静御前との別れなどの有名なエピソードの多い人物です。もう一人は成吉思汗ことチンギス・ハン。モンゴルの遊牧民から始まり、西はヨーロッパまで、南はイランまで届く人類史上最大の帝国を築きました。どちらも馬を使った戦いの天才で、「義経が大陸に渡ってチンギス・ハンになった」という説は一度は聞いたことがある人が多いと思います。悲劇の英雄の生存を願う人々が作り出したトンデモ俗説のようですが、本作ではそれを本格的に考察します。
 本作は大部分が歴史の検証作業の繰り返しというかなり珍しい小説です。歴史のロマンを地道な証拠集めによって一つずつ検証していきます。ミステリー小説なのに殺人事件は全く起きません。それどころか、死んだとされている源義経の復活を、800年の時を越えて考察します。

 ですが、それが全く気にならないくらいの面白さがあります。まず、義経や成吉思汗についてかなり細かく書かれていますが、それを小説という形にうまくまとめてあり読みやすいです。義経の最期となる衣川の戦いにいくつも不審な点が見つかったり、成吉思汗についての記録の中に義経を思わせる符合があるなど、各章ごとに面白い発見がどんどん出てきます。説明のための固有名詞が多くてとっつきにくい印象ですが、一気に読んでしまいたくなる不思議な魅力がありました。また、『成吉思汗の秘密』という一見するとつまらなそうなタイトルにも実は秘密が隠れています。

 膨大な知識と深い考察を楽しめる、歴史ミステリーの傑作だと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。