本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『青が散る』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のテニス部の部員数はソフトテニスが男子3万9356人、女子2万8515人、硬式テニスが男子4万2765人、女子が2万7356人でした。高校生全体は約300万人なのでおよそ4%、だいたい23人に1人がテニス部に所属していることになります。軟式と硬式は同じくらいの規模だったようです。

 さて、今回は宮本輝さんの『青が散る』を紹介します。新設大学でのテニスと恋愛の日々、大学生らしい青春小説です。

 

 

〇あらすじ!

 新設されたばかりの関西の大学に入学した燎平は、自由奔放で屈託のない夏子と出会う。が、金子と共にテニス部を作ることになり、炎天下の元テニスコートづくりに励む日々を送る。

 

〇感想!

 舞台が新しく設置された大学ということで、グラウンドや講堂もこれから建設予定、上級生もいないという特殊な状況から始まります。サークルもないので自分たちで好きなものを作っていくことになります。主人公の燎平は夏子に一目惚れしたものの、奔放な彼女にうまくアプローチできず、流れで入ったテニス部の方に力を入れていきます。と言ってテニスコートさえないので、まずは土を運び込んでクレーコートを作り上げていくところから始めます。自分たちの手でコートを作るのはかなり無謀にも思えますが、文句を言いつつもやってのけるところは若さの賜物と言えそうです。

 何か一つのことに打ち込みたいと思っても、何に打ち込めばいいのか、本当にそれでいいのか分からない。今後の人生で役に立たないであろうテニスを一生懸命にやることに果たして意味があるのか。周りが大人になっていく中で、自分だけ何もないのではないか。子供でも大人でもないモラトリアム特有の気楽さと将来に対する不安がうまく描かれていたと思いました。登場人物たちはお互いに関西弁できつい言葉をズバズバ言い合いますが、本音を語り合えるのも若さでしょうか。

 テニスの試合は6ゲーム先取の3セットマッチ。長いゲームの中で多くのポイントを積み重ねる必要があります。また、基本的にサーブ側が有利とされており、勝つためにはどこかで相手のサーブをブレイクしなければなりません。逆に、サーブゲームをキープし続ければ、少なくとも負けることはないと言えます。途中で相手のペースになってしまったときは、ひたすら耐えてこちらに流れが来るのを待たなければなりません。本作の登場人物たちはみんな一見気楽なようでいて、実際は悩みや葛藤を抱えています。人生も長いスパンで見ると調子のいい時も悪い時もあって、それはテニスの試合のようなものなのかもしれませんね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。