本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

古き良き時代の懐かしい雰囲気を感じる 『細雪』紹介

 こんにちは。

 4月のテーマは『』です。古くから日本人を魅了してきた桜は、数多くの小説にも登場してきました。

 いよいよ《桜》のシリーズも最後の紹介となります。

 今回紹介する本は、谷崎潤一郎の『細雪』です。今では古典とされていますが、こちらで紹介したように1950年のベストセラーとなった小説です。

 

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〇どんな本?

 谷崎潤一郎の代表作である『細雪』は太平洋戦争の翌年から執筆が始まりました。当局による厳しい統制を受けながらも書き続けられ、終戦後まもなく完成しました。作中の時代設定は太平洋戦争直前であり、物語が進むにつれて時代の暗い影が見え隠れしています。

 また、上流階級の話ということで、どこか上品な関西風の言葉遣いで会話文が掛かれているのも特徴です。

 昔の勢力を失った旧家の個性的な四姉妹が主役になります。といっても、本家を継いでいる長女の鶴子はあまり登場せず、主に蘆屋の家に住む次女の幸子の視点で物語は進みます。三女の雪子の見合い、四女の妙子の奔放な恋愛模様が話の中心となります。

 

〇あらすじ

 大阪船場の旧家である蒔岡家の次女・幸子は、引っ込み思案で古風な日本風美人である三女・雪子がなかなか良縁に恵まれないことを心配をしていた。活動的で自由奔放な四女・妙子が駆け落ち騒ぎを起こし、それが雪子の名前で新聞に載ってしまったことも遠因の一つだった。

 

〇この『桜』がすごい!

 幸子たちは、毎年春になると恒例行事として京都への花見に出かけます。美しい三姉妹が着物を着飾り、仲良く美しい桜を見上げます。そのシーンが全編通して最も印象深いシーンでした。

 ルートを紹介すると、

①4月中旬の土曜の午後、蘆屋の家を出て南禅寺の瓢亭で早めの夜食

②都踊りを見物、帰りに祇園の夜桜を見る

麩屋町の旅館に泊まる

④翌朝、嵯峨から嵐山へ向かう、広沢の池で写真、大覚寺清凉寺天竜寺、渡月橋

⑤中の島の掛茶屋あたりで持ってきた弁当を食べる、今年は法輪寺

⑥午後には市中に戻って平安神宮神苑の花を見る

 

 地図で調べてみると、1日目は南禅寺祇園など左京区方面を回り、2日目に嵐山方面を巡り、最後に平安神宮に帰ってくるといった感じでしょうか。私には土地勘がないのですが、2日掛けて京都の東から西まで順番に回れる段取りのいいコースに見えます。トリを飾る平安神宮の枝垂れ桜は京都で最も美しく見事だそうで、本文中で2ページ近く割いて描写されています。

 あの、神門を這入って大極殿を正面に見、西の廻廊から神宛に第一歩を踏み入れた所にある数株の紅枝垂———海外にまでその美を謳われていると云う名木の桜が、今年はどんな風であろうか、もうおそらくはないであろうかと気を揉みながら、毎年廻廊の門をくぐる迄はあやしく胸をときめかすのであるが、今年も同じような思いで門をくぐった彼女たちは、忽ち夕空にひろがっている紅の空を仰ぎ見ると、皆が一様に、

「あー」

と感歎の声を放った。この一瞬こそ、二日間の行事の頂点であり、この一瞬の喜びこそ、去年の春が暮れて以来一年に亘って待ち続けていたものなのである。

↑ここまで引用

 想像するだけで京都に行きたくなりますね。

 他にもこの小説独自の要素がいくつもあります。日本の古き良き文化と明治から広まった西洋的な文化とが混じり合い、この時代にしか存在しなかったノスタルジックな雰囲気を感じられます。幸子たちの関西風の訛りも上品な感じがして華があります。見たこともない文化なのに、なぜか懐かしさのようなものを感じました。70年以上前の作品ですが、そういった空気感を今でも感じることができました。一方でこの時代の作品は戦争の影響を受けずにはいられません。本作でも暗い時代に向かっていく流れも切なさややるせなさを感じました。そういったいろんな要素が含まれているからこそ、本作は名作と呼ばれるのだと思いました。

 本当に時間が過ぎるのはあっという間ですね。本当は桜の本をもっとたくさん読んでみたかったのですが、それらはまた来年の春ということで・・・・・・。

 来月からはまた別のテーマで本を読んでいきたいと思います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。