本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『さよならドビュッシー』紹介

 こんにちは。

 みなさんは、秋と言えば何を思い浮かべますか?読書の秋ももちろんいいですが、秋と言えば芸術の秋ですね。たまには優雅なピアノの演奏に耳を傾けたくなります。

 現在ピアノと言えば黒色をイメージしますが、最初の頃は木目や絵画といった外装をしていたそうです。江戸時代末期、刀や浮世絵といった日本文化がヨーロッパに伝わったときに、漆が一緒に伝わって高級そうな黒いピアノが広まったという説があります。

 というわけで、9月のテーマは『ピアノ』になります。

 さて今回は、中山七里さんの『さよならドビュッシー』を紹介します。ミステリーなのでネタバレには注意して書いていきたいと思います。

 

f:id:itsutsuba968:20220409214319j:plain

 

♪ あらすじ

 音楽科に進むことになった遥は、火事により祖父と従姉妹を失い、自身も全身大やけどの重傷を負ってしまう。遺言により莫大な遺産を受け継ぐことになるが、そのためにはピアノの道に進むことが条件だった。ピアニスト・岬洋介の協力と、血のにじむようなリハビリにより、彼女のピアノは奇跡的な回復を見せる。しかし彼女の身の回りでは、階段の床板が剥がされていたり、松葉杖の留め具に細工されていたりと不審な出来事が続いていた。

 

♪ 本の間奏

 本作を読み終えて最初に思ったのは「悔しい!」でした。ミステリーを読んでトリックに驚いたり感心したりすることはよくありますが、純粋に悔しさを感じたのは久々だった気がします。盛り上がってからのラストも非常に鮮やかで、読後感もさっぱりしていました。気付けるだけのヒントはあったのに、完全に油断していましたね。

 本作はミステリー作品にしては珍しく(?)ストーリーにも力が入っています。ピアニストを目指していた少女が不幸な火事で祖父と従姉妹を失い、自身も大火傷を負います。ピアニストとしては絶望的な状況にある上、同級生からはいじめられ、教師陣からは見放されてしまいます。そんな中、遺言により遥がピアノの道に進むことを条件に祖父の遺産を受け継ぐことが判明し、家族の間にも不穏な空気が流れます。新進気鋭のピアニストである岬洋介がリハビリに協力することとなり、ここからはミステリー作品であることを忘れるくらいピアノ漬けの日々となります。「奇跡的な復活」と書くと綺麗事のようですが、実際はひたすら泥臭い練習を繰り返し、周囲の敵意を反骨心に変えてピアノに没頭します。彼女の奮闘と一緒にストーリーも盛り上がっていく不思議なミステリーになっています。

 タイトルにもなっているドビュッシーは、19世紀後半から20世紀にかけて活躍した音楽家です。伝統や形式にとらわれない自由な作曲を行ったと言われていたそうで、斬新な本作のテーマにもぴったりな気がしました。また、作中では大怪我から復帰する主人公が難聴を患いながらも作曲したベートーヴェンにも例えられており、改めて音楽家の執念を感じました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。