本をめぐる冒険

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『信長の棺』紹介

 こんにちは。

 天正10年6月2日(新暦に直すと1582年6月21日)は、本能寺の変が起こった日です。織田信長は家臣である明智光秀の謀反により、天下統一を目の前にしてその生涯を閉じることとなりました。信長といえば、好きな歴史上の人物ランキングなどで1位に輝くことが多く、その人気は非常に高いです。どうしてそんなに人気があるのでしょうか。今月はそんな信長が登場する小説を読んでみたいと思います。

 天正元年(1573年)、信長は朝倉・浅井を相次いで滅ぼします。義理の弟にあたる浅井長政の頭蓋骨を杯にして、武将たちと酒を飲んだという逸話が有名ですね。長政に嫁いでいたお市の方と三人の娘たちは助け出されます。お市の方は後に柴田勝家のもとに嫁ぎますが、賤ヶ岳の戦いで秀吉に敗れて自害します。3姉妹はそれぞれ、茶々は豊臣秀吉の側室になり淀殿と呼ばれ、初は京極高次正室になり、そして江は徳川秀忠正室として、3代将軍家光を産んでいます。

 さて、今回紹介するのは、加藤廣さんの『信長の棺』です。『信長公記』の著者・太田牛一を主人公として、日本史最大の「本能寺の謎」に迫る歴史ミステリーです。

 

 

〇あらすじ

 太田信定は信長から5つの木箱を預かるよう密命を受け、安土城に待機していた。そこへ光秀が謀反を起こし、信長が討たれたと知らせが入る。混乱の中で信定は軟禁され、ようやく解放されたときには天下は秀吉のものとなっていた。信定は隠居して牛一と名を変え、信長の伝記を完成させることを決意する。

 

信長の魅力、ここにあり!

 なぜ信長の遺体が発見されなかったのか?という、本能寺の変における大きな疑問に、正面から取り組んだ歴史ミステリーとなります。信長が託した木箱や安土城の楼閣を「天守」と呼んだことなどの伏線がうまく組み合わさり、最後はミステリーらしいトリックもあって驚きの真相が明かされます。
 『信長公記』を書いた牛一が主人公であることも、本作の重要な要素の一つです。現代の視点から歴史を見るのではなく、当時を生きた人間の視点から謎を追っていくことで、物語により入り込みやすくなっていたかと思います。天下人の秀吉に命じられて、信長を悪者として描かざるを得なくなるあたりは、いかにもありそうな説得力がありました。長年信長に仕えていた牛一は、ありのままの信長の伝記を完成させたいという使命感との間で葛藤することになります。歴史を書くのは勝者側であるとは言いますが、牛一と同じく、そもそも歴史とはなんなのか、意味があるものなのか、よく分からなくなってしまいそうです。
 信長の死の謎に迫るという構成上、冒頭の時点で信長本人はすでに死亡していますが、牛一を通して語られる部分がありました。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、暦に関する信長の考えは、こういう見方もあるのかと驚きました。本能寺の変が今なお考察され続けているのは、才気あふれる信長の無念の死を惜しむ人たちが多いからなのかもしれません。
 ここまで読んでくださってありがとうございました。