『終末のフール』紹介
こんにちは。
早いもので今年ももう12月。2022年もまもなく終わろうとしていますね。みなさんにとって、今年はどんな年でしたか。
1月には、第166回直木賞・芥川賞の発表がありました。直木賞は米澤穂信さんの『黒牢城』と今村翔吾さんの『塞王の楯』が、芥川賞は『ブラックボックス』が受賞しました。
今年も色々ありましたが、なるべくやり残したことのないように年の終わりを迎えたいですね。
というわけで、今月は「世界の終わり」をテーマに本を読んでいきたいと思います。
さて、今回は伊坂幸太郎さんの『終末のフール』を紹介します。
〇あらすじ
小惑星の衝突まであと3年となり、世界は一時的なパニックが収まって小康状態にあった。
6年ぶりに娘が帰ってくる日、私は能天気な妻とホラー映画を見ながら暇をつぶす。終わりが迫る今、喧嘩別れした康子と会ってどうすればいいのか、私は不安を感じていた。(『終末のフール』)
これまで不妊に悩んでいたが、今になって美咲から妊娠していることを告げられ、優柔不断な僕は決断を迫られることになる。(『太陽のシール』)
俺は兄と共に、家族で夕食を取ろうとしていた杉田玄白の家に押し入り、拳銃を突きつける。それは、マスコミの過熱報道が原因で自殺した妹の復讐だった。(『籠城のビール』)
疑似冬眠中のわたしは、父の書斎にあった約3000冊の本を読み終えた。机の上に張られた他の目標は、「お父さんとお母さんを恨まない」と「死なない」だった。(『冬眠のガール』)
ぼくは以前通っていたキックボクシングのジムを訪れた。そこでは、苗場さんと会長が、かつてと変わらない姿で練習に打ち込んでいた。(『鋼鉄のウール』)
自殺に失敗した俺は、大学時代の二ノ宮との会話を思い出していた。そこへ、二ノ宮本人から「新しい小惑星を発見した」と電話がかかってきた。(『天体のヨール』)
上京して役者を目指していたわたしは、仙台に戻って早乙女家の孫娘や双子のお母さんを演じていた。(『演劇のオール』)
俺は妻の勧めもあって、山形から父を呼び寄せた。変わり者の父は、最後の瞬間を高いところで眺めたいと、マンションの屋上に櫓を建てていた。(『深海のポール』)
「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」
〇感想
本作では、隕石の衝突により世界が終わります。それが発表されたときは、略奪や放火など世界は大混乱に陥りましたが、残り3年となった作中時点では、人々は冷静で穏やかな日常をなんとか送っていました。核戦争や疫病とは違い、実際に世界が終わるまでの猶予がある場合には、一時的なパニックはあっても意外と長続きしないものなのかもしれませんね。
本作には劇的な出来事や急激な変化は登場しません。世界の終わりという非日常にありながら、少しだけ変わった日常生活を続けており、混乱も過去の事として語られるのみです。ところが、あと3年というタイムリミットが決められたことで、登場人物たちはそれまで先送りにしていた問題と向き合うことになります。それぞれの問題は、実は世界の終わりそのものとはあまり関係なく、世界の終わりはあくまでもきっかけに過ぎません。その雰囲気がギャップがあって面白かったです。
また、本作は仙台のヒルズタウンを舞台にしており、登場人物たちも各話を超えて繋がっています。タイトルもそろえてあって、それぞれに映画の話が頻繁に登場するなど、かなり計算されて作られているようです。個人的には『太陽のシール』と『天体のヨール』が好みでしたが、どの話もオチのようなものがあってまとまっている印象でした。
ここまで読んでくださってありがとうございました。