本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

スポーツをめぐる冒険

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節です。

 と言うわけで、今月は『スポーツ』をテーマに本を読んでみました。

 

 

 

〇種目!

第1種目.『バッテリー』紹介 - 本をめぐる冒険

 中学生が主人公の野球小説。原田巧と永倉豪というバッテリーが、ぶつかり合いながらも成長していきます。

 

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第2種目.『ホケツ!』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のサッカー小説。のはずが、主人公である大地の試合シーンがほぼ「ない」という珍しい作品です。不思議なことですが、それでも面白かったです。

 

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第3種目.『走れ!T高バスケット部』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のバスケ小説。よく分からない勢いと畳みかけるようなギャグのセンスは抜群です。

 

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第4種目.『2.43 清陰高校男子バレー部』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のバレー小説。主人公二人を取り巻く人間関係がやや複雑で、コートの外でもバチバチしてます。男子バレーのスピードとパワーに圧倒されます。

 

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第5種目.『ラブオールプレー』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のバドミントン小説。基本は、努力と友情。そのうえで「相手の嫌がることをする」のは、対戦スポーツならではです。

 

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第6種目.『青が散る』紹介 - 本をめぐる冒険

 大学生が主人公のテニス小説。新設されたばかりの大学で、一から部員を集め、コートも手作り。大学生らしい将来に対する不安も描かれています。

 

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第7種目.『チーム!』紹介 - 本をめぐる冒険

 小学生たちが主人公の卓球小説。主役が1話ごとに世代交代していくという変わった設定で、前話の主人公が頼もしい先輩になって成長していきます。

 

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第8種目.『北風 小説 早稲田大学ラグビー部』紹介 - 本をめぐる冒険

 早大生が主人公のラグビー小説。厳しい練習で弱者を強者にするのが早稲田流。体育会系特有の無意味な上下関係が感じられないのに驚きます。

 

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第9種目.『DIVE‼』紹介 - 本をめぐる冒険

 中学生が主人公の飛込み小説。厳しい練習も辛すぎる試練も乗り越えて、その一瞬のために何度でも飛び込みます。

 

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第10種目.『頼むから、ほっといてくれ』紹介 - 本をめぐる冒険

 小学生から大人へと成長していく主人公たちのトランポリン小説。決まった主人公がおらず、オリンピックに行ける者、行けずに辞めて行く者、一度引退した後にカムバックする者など、いろいろな人生があります。

 

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第11種目.『ボックス!』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のボクシング小説。真面目君とお調子者。正反対な二人がボクシングにのめりこんでいきます。感情移入する先が変わっていく面白さがありました。

 

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第12種目.『ペダリング・ハイ』紹介 - 本をめぐる冒険

 大学生が主人公のロードバイク小説。チームのおじさんたちがただひたすらに頼もしい。

 

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第13種目.『武士道シックスティーン』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公の剣道小説。宮本武蔵を師と仰ぐ香織と、勝ち負けにこだわらない早苗が出会い、互いに影響を与え合います。前半は香織の暴走っぷりが面白く、後半のややシリアスな場面とのギャップが引き立ちます。

 

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第14種目.『七帝柔道記』紹介 - 本をめぐる冒険

 大学生が主人公の柔道小説。寝技しかやらない七帝柔道。まだまだ知らない世界が存在するのですね。

 

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第15種目.『凛の弦音』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公の弓道小説。主人公が弓道と向き合う青春小説でもあり、ミステリー要素も含んでいます。

 

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第16種目.『おとめの流儀。』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のなぎなた小説。個性豊かな先輩と同期たちとともに、なぜか打倒剣道部を目指します。

 

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第17種目.『スケートラットに喝采を』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のスケードボード小説。世にも珍しいスケボーという題材で、ミステリー的な要素もあります。

 

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第18種目.『すもうガールズ』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公の女子相撲小説。ギャルが相撲するというインパクトが脚本家らしさを感じます。今回読んだ中では一番恋愛が入っている気がしました。

 

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第19種目.『がんばっていきまっしょい』紹介 - 本をめぐる冒険

 高校生が主人公のボート小説。女子ボート部をたった一人で始め、大会での初勝利を目指します。普段は楽天的ですがやるときはやる、という愛媛の風土も感じました。

 

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〇感想!

 「スポーツ」(と「青春」)をテーマにしよう、と思いついたのは良いのですが、あれもこれもと選んでいるうちに、いつのまにか19冊にまで膨らんでしまいました。実は、これでもウィンタースポーツを泣く泣く削り、陸上競技もいつか「走る」をテーマにしようと先送りにしています。また、「野球」は小説として特に人気があって、「野球」単体でテーマとして取り上げても面白かったかもしれません。逆に言えば、それだけいろいろなスポーツが存在して、それぞれに夢中になっている人たちがたくさんいることを再認識する機会となりました。

 現実と同じように、小説の主人公たちもそれぞれの目標を目指してスポーツに取り組んでいます。それらは地区大会での勝利からオリンピック出場権を賭けたものまでさまざまですが、どれも読んでいて気持ちいいくらいの真剣さを感じました。練習の厳しさや本番の緊張感のあまり、楽しかったはずのスポーツが嫌になってしまうという葛藤が生まれるというのも、ややお決まりなものの読みごたえがありました。スポーツらしい爽やかな作品ばかりなので読後感も非常に良かったです。中でも『バッテリー』の原田巧の尖り具合はぜひ一度読んでみてほしいです。

 また、各スポーツならではの雰囲気がうまく再現されているものが多くて楽しめました。早いテンポでガンガン進んだり、ひたすら地道な練習を重ねたり、対戦相手の弱点を容赦なく突いたり、逆に相手よりも自分の心と向き合ったりと、やったことがないスポーツでも想像力をかき立てられました。『武士道シックスティーン』では、自分の剣道を盲信していた主人公が、後半壁にぶち当たるところがとても読みごたえがありました。また、『おとめの流儀。』は今回の個人的なダークホースでした。ギャグっぽいつかみから、後半でなぎなたの本質的な部分がストーリーに織り込まれていくのがとても面白かったです。

 スポーツの青春小説は、1巻で終わらずにシリーズ化しているものが多いのも特徴です。若者の成長を描くのには1冊では足りないのかもしれません。一つの目標を達成したら新しい目標を目指していくというのも、どことなくスポーツらしい気がしました。最後まで追えてないものが多いので、いずれ読んでみたいですね。

 

 おまけ。今回はどの小説も主人公が学生ということで、各スポーツにおける高校生の部員数も一つのデータをして取り上げました。個人的には、バドミントンと弓道の人気が思ったよりも高いなと思いました。チームスポーツが多い中で個人種目であるバドミントンが上位に入っているのは興味深いですし、弓道の女子人気が高いことも意外でした。

部活名 男子 女子 合計
サッカー 147,082 10,507 157,589
バスケ 83,605 52,850 136,455
野球 131,259   131,259
バドミントン 69,065 56,227 125,292
バレー 50,967 55,584 106,551
陸上競技 59,708 33,418 93,126
テニス 42,765 27,356 70,121
卓球 47,149 21,064 68,213
ソフトテニス 39,356 28,515 67,871
弓道 29,233 36,200 65,433
ハンドボール 27,826 15,634 43,460
剣道 20,513 12,341 32,854
水泳 17,632 10,743 28,375
ソフトボール 3,682 15,757 19,439
ラグビー 17,632   17,632
柔道 11,246 3,424 14,670
登山 8,237 2,805 11,042
空手 4,513 3,364 7,877
ボート 2,864 1,651 4,515
体操 1,674 2,506 4,180
アーチェリー 2,316 1,718 4,034
ホッケー 1,606 1,252 2,858
フェンシング 1,395 1,105 2,500
新体操 418 1,959 2,377
少林寺拳法 1,177 1,170 2,347
ウエイトリフティング 1,619 455 2,074
レスリン 1,724 279 2,003
ボクシング 1,950   1,950
スキー 1,200 652 1,852
自転車 1,503 149 1,652
なぎなた   1,483 1,483
カヌー 973 505 1,478
ヨット 789 400 1,189
水球 1,185   1,185
スケート 828 340 1,168
相撲 803   803
飛込み 29 48 77
合計 835,523 401,461 1,236,984

(出典は高野連高体連の各サイトより。データの入力間違いがあったら申し訳ございません。)

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

 

『ハロウィン・パーティ』紹介

 こんにちは。

 今日10月31日はハロウィンです。本場アメリカやイギリスでは、仮装した子供たちが「トリック・オア・トリート」と尋ねて回ったり、各家庭でハロウィンパーティーを開催したりします。それに対して、日本ではいろいろな所でハロウィン商戦が行われたり、仮装した人たちが集まりすぎて騒動になったりと、子供よりもむしろ大人の方が積極的な気がしますね。

 今日は、アガサ・クリスティーさんの『ハロウィン・パーティ』を紹介します。楽しいハロウィン・パーティで起きた恐ろしい殺人事件の謎に、名探偵エルキュール・ポアロが挑みます。

 

〇あらすじ

 ミステリ作家のアリアドニ・オリヴァは、ティーンエイジャーのためのハロウィンパーティに参加する。最中、参加者の一人であるジョイスが「殺人を見た」と言い出した。皆は虚言癖を疑っていたが、会の終了間際にジョイスがバケツに首を突っ込んで死んでいるのが発見される。オリヴァは友人のエルキュール・ポアロに出馬を求める。

 

「あなたは美を求めている」とエルキュール・ポアロは言った。「いかなる犠牲をはらってでも、美を。わたしとしては、求めているのは事実です。つねに、事実です。」

 

〇感想

 物語は、オリヴァがウドリー・コモンで行われるハロウィンパーティーの準備に参加するところから始まります(と言っても彼女は喋ったりりんごを食べてばかりで役に立ちませんが)。パーティはティーンエイジャーのためのもので、箒の柄競争、小麦粉切り、リンゴ食い競争、スナップドラゴンといったたくさんのゲームが企画されていました。日本のハロウィンとはやはり別ものみたいです。イギリスのハロウィンパーティで、小学生のお楽しみ会的なゲームをこんなにやるというのは知りませんでした。

 事件はパーティ終了間際に起こりました。ジョイスという少女が、リンゴ食い競争の水が入ったバケツに顔を突っ込まれて死亡しているのが発見されます。ハロウィンというイベントも相まって、より不気味な雰囲気です。翌日、オリヴァの要請を受け、ポアロが捜査に乗り出します。パーティの最中、ジョイスは「自分は人が殺されるのを見た」と言っていました。皆が彼女の虚言癖だと疑う中、ポアロはかつてウドリー・コモンで実際に殺人があったのではないかと思い、過去の事件を調べていきます。後半はハロウィンはあまり関係なくなり、関係者の話を聞きながら隠された人間関係が明かされていきます。無関係と思われた過去の事件が鮮やかにつながっていくところは、流石ミステリーの女王といった手際でした。

 本筋とは関係ないですが、作中でオリヴァの口から現実の人物をモデルに創作することについて語られます。現実の人物と親しくなりすぎるとモデルにできなくなるというのは、なんとなく分かります。ひょっとしてクリスティー本人もそうだったのでしょうか。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『がんばっていきまっしょい』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のボート部の部員数は男子が2864人、女子が1651人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.15%、だいたい660人に1人がボート部に所属していることになります。ボート部は人口密度よりも都道府県による偏りが顕著で、戸田ボート場もある埼玉、大きな湖のある静岡や滋賀、京都、瀬戸内海に面する愛媛など、やはり水上練習できる環境を備えているところが盛んなようです。日本で二番目に大きい霞ケ浦を有し、太平洋にも広く面している茨城が男女ともに一桁しか部員がいないのは、個人的に謎です。

 さて、今回は敷村良子さんの『がんばっていきまっしょい』を紹介します。松山東高校を舞台に、たった一人から始まった女子ボート部の奮闘を描きます。

 

 

〇あらすじ!

 松山東高校に入学した悦子はボートをやりたいと思うが、女子ボート部は廃部になっていた。男子の練習の手伝いをしながら部員を集め、女子ボート部を立ち上げる。ろくに練習もせずに挑んだ新人戦は、試合にもならない恥ずかしい結果に終わってしまう。悔しさをばねに悦子たちは心を入れ替えて猛練習に励む。(『がんばっていきましょい』)

 

〇感想!

 競技ボートの中でもナックル・フォアと呼ばれる種目では、舵を取るコックスと4人の漕ぎ手が力を合わせて船を漕ぎます。頭を空っぽにしてオールを漕ぎ続けるボートは、作中では奴隷の競技とも言われています。悦子はたった一人から女子ボート部を再建し、新人戦後は部員たちが同じ気持ちで猛練習に取り組んでいきます。悦子をはじめ作品全体に純粋でエネルギッシュな空気が満ちていて、読んでいて気持ち良かったです。一つのことに一生懸命に取り組む姿はとても美しいですね。2話目の『イージー・オール』では怪我や恋愛といった波乱も待っています。

 また、四国・愛媛のどこかのんびりした空気感と瀬戸内海の海の荒々しさにギャップが感じられて面白かったです。地方を描いた作品はその土地ならではの雰囲気があって面白いですよね。本作に登場する人たちは、皆どこか楽天的なところがある一方で、やると決めたら腰を据えてとことんやるという気風を感じました。著者の敷村さん自身の経験を描いた作品でもあるので、もしかしたら自然が多く温暖な気候の愛媛の県民性なのかもしれませんね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『すもうガールズ』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の相撲部の部員数は男子のみで803人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.0%、だいたい000人に1人が相撲部に所属していることになります。体と体が激しくぶつかり合う相撲は、大相撲の影響もあってやっぱり巨体の男たちをイメージしてしまいがちですが・・・?

 さて、今回は鹿目けい子さんの『すもうガールズ』を紹介します。無気力だったギャルが、相撲に恋に友情にぶつかっていきます。

 

 

〇あらすじ!

 高二にして努力なんて意味がないと悟った遥は、今さえよければいいと思いギャルになる。しかし、小学校の頃の友達だった乙葉と再会し、もう一度シコを踏もうと相撲部に誘われる。

 

〇感想!

 著者の鹿目さんは脚本家だそうで、本作もギャルが相撲に取り組むというキャッチーさやトントン拍子で話が進んでいくテンポの良さからとても読みやすかったです。恋愛関係の話も重すぎない程度に入ってくるので、若い読者には特に楽しめそうでした。そんな軽めの描写の中でも、遥に対する乙葉の変わらない友情が描かれるシーンなど、結構ぐっとくる描写もありました。その分、家族の描写が割を食ってしまったようで、出て行ってしまったというパパについては、最後までやや消化不良感が残っています。

 スポーツとしての相撲についても知らないことがたくさんありました。女子相撲は、体重別に超軽量級から重量級までの4つに無差別級を加えた5つの階級があります。多くの女子高生が1㎏の増えたと嘆くのに対し、相撲部の女子は体重が増えたことを喜ぶそうです。辛い練習で身体を追い込んだ後、吐くほど食べなければならないのも大変そうです。激しい運動をしながら体重を増やすのは、減量と同じくらいしんどいと聞いてことがあります。また、試合時間がかなり短い上に、取り組みが一発勝負というのは対戦スポーツで唯一なのではないでしょうか。相撲には柔道のように有効や技ありといったルールもなく、相手を土俵の外に出すか、足の裏以外を土をつければ勝ちという非常にシンプルなものです。だからこそ誤魔化しがきかない、「強くなれるスポーツ」なのかもしれませんね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『スケートラットに喝采を』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のスケードボード部は(少なくとも統計上は)ありませんでした。ですが、2021年の東京オリンピックでは新種目として採用され、多くの若い日本人選手たちの活躍により一躍話題になりましたね。スポーツとしてのマイナーさに加え、狭い日本では練習場所がないことが課題の一つとされています。

 さて、今回は樹島千草さんの『スケートラットに喝采』を紹介します。スケートボードが盛んな街を舞台にスケボーに青春を捧げる若者たちが奮闘する物語で、伝説の選手の死をめぐるミステリー的な要素も含まれているちょっと変わった小説です。

 

 

 

〇あらすじ!

 スケボー施設・ギガントニオでの練習中、爽羽は悪意ある妨害を受けた上に施設を追い出されてしまう。ギガントニオはアラタというスケーターが作ったものだったが、今は彼を憎む竜玄という男が経営していた。居場所を失ったように感じる爽羽だったが、生徒から恐れられている日向という教師から、山の中の廃墟を紹介される。そこは竜玄に逆らうスケーターたちの練習場だった。

 

〇感想!

 物語冒頭で、主人公の爽羽はスケボー施設を追い出され、友人の三島は自身のグラフィティアートを落書きとして消すように警告を受けます。特に日本では、スケボーは野球やサッカーのように公に認められているわけではありません。明確に禁止されているわけではないですが、スケボーは不良少年のアイテムのように扱われることが多く、世間的にはやはり否定されがちです。本作では、スケートボードがあくまでもストリートカルチャーであることがあえて強調されており、それによってこの作品ならではの空気感を醸し出していると思いました。主人公は失った居場所を廃墟の練習場に求めていきます。そこには権力に逆らう若者たちが群れをつくるように集まっていました。学校に居場所を見出せない少年たちの疎外感を、その辺の道路を駆けるスケボーで表現し、自分たちだけの群れをつくる。主人公が自分で居場所に辿り着くのではなく教師に紹介されたり、最後にとある人物があまりにはっきりと明言してしまったりとやや疑問に残る部分はありますが、普通の学校の部活動では味わえないスケボーならではの良さがあって面白かったです。

 本作には同時にミステリー的な要素も含まれており、15年前に起きた天才スケーターの事故死にまつわる謎を追っていくことも、ストーリーの軸の一つとなっています。不可解な死の謎がこれからの展開にどう繋がっていくのか、続きを楽しみにしながら読むこともできるのが良かったです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『おとめの流儀。』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のなぎなた部の部員数は女子のみで1483人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.05%、だいたい2000人に1人がなぎなた部に所属していることになります。大男の武蔵坊弁慶が使っていたことで有名ななぎなたを、今では女性が振るっているのが不思議と言えば不思議です。

 さて、今回は小嶋陽太郎さんの『おとめの流儀。』を紹介します。前半はなぎなた部の個性豊かな面々が面白く、後半は意外としっかり練られたストーリーが面白い隠れた名作です。

 

 

〇あらすじ!

 目覚ましよりも早く起き、味噌汁を作り、母を起こす。手際のいいさと子は、ゆきちゃんからの部活動見学の誘いを断り、まっすぐ剣柔道場へ向かう。たった一人のなぎなた部である朝子さんからは、あと3人部員を集めないと廃部になると言われる。

 

〇感想!

 長野の中学校のなぎなた部に集まった個性豊かなメンバーが、なぜか剣道部を倒すために奮闘します。その学校では男子は剣道部に、女子はなぎなた部に入るという伝統が存在し、20名以上いる剣道部に対し、なぎなた部は廃部の危機に瀕していました。しかも唯一の先輩である朝子さんは剣道部に対して並々ならぬ因縁があり、経験者のさと子と初心者のゆきちゃん、井川さん、かよちゃん、岩山君は、巻き込まれる形で剣道部との対決に向けて練習に励むことになります。軽妙な語り口と連発されるギャグが面白く、サクサク読むことができました。

 中学生のなぎなたは2メートル10センチから35センチの長さで、防具は5キロもします。また、剣道と同じ面、胴、小手に加えて、すねを打っても有効です。得物の長さも相まって女性でも剣道の有段者と互角以上に戦えるというのが面白いですね。そしてなぎなたの最大の特徴は、女性の武道であると位置づけられていることです。そのことがさと子や朝子さんが「なぜなぎなたをやるのか」というストーリーの核心にも深くつながっており、最後にタイトルの意味も回収する構成のうまさや自然な話運びが光っていました。マイナースポーツだと競技の紹介が中心になってしまいそうですが、読み物として文句なしに面白かったです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『凛の弦音』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の弓道部の部員数は男子が2万9233人、女子が3万6200人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ2%、だいたい45人に1人が弓道部に所属していることになります。実は剣道や柔道よりも部員数の多い弓道。武道の中でも特に礼儀作法に厳しく、立ったまま禅を行う「立禅」であるとも言われます。弓道女子、凛々しくていいと思います。

 さて、今回は我孫子武丸さんの『凛の弦音』を紹介します。弓道部に所属する弓道女子が謎に挑むミステリー小説となっています。

 

 

〇あらすじ!

 参段試験で思ったような射ができなかった凛は、棚橋先生の家へ報告に向かう。凜は先生の家で射の練習をしていたが、部の先輩からは棚橋先生に迷惑を掛けないようにと忠告を受ける。土曜日、棚橋先生の家に向かうとパトカーが止まっていた。射場で喉に矢が突き刺さっていた男が発見されたという。

 

〇感想!

 本作は連作短編集のような形式で、高校の弓道部を舞台とした物語に加えてミステリー的な要素も含まれています。1話目からいきなり殺人事件が発生しますが、それ以降は日常ミステリーが中心、後半は謎解きよりも弓道に重きが置かれているなど、1冊で様々な展開を味わうことができます。ミステリーとしてはやや物足りなさを感じるものの、主人公の凛が悩みながらも弓道と向き合っていく青春小説としても楽しめ、読後感もさっぱりとして爽やかでした。

 本作を読んで、弓道はメンタル的な部分が大きいのだなと感じました。正射必中、的に中るかどうかよりも正しく射を行えたかどうかが重視されます。昇段試験でも2射とも的中させたのに落ちる人もいれば、1射しか中らなくても昇段できる人がいるそうです。また、的に「中てる」のではなく「中る」のだとも言われています。まさに「立禅」にふさわしく、究めれば本当に悟りでも開けそうです。相手と競い合うというよりは、自分自身との戦いという感じでしょうか。いかに自分の内面と向き合うのかが重要になりそうです。男子よりも女子の方に人気が高いのもそのあたりに理由がありそうですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。