本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『七帝柔道記』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の柔道部の部員数は男子が1万1246人、女子が3424人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.49%、だいたい200人に1人が柔道部に所属していることになります。同じ武道である剣道や弓道とは違い、柔道は1964年の東京大会からオリンピックの正式種目として採用されています。鮮やかな一本勝ちは文句なしに格好いいですよね。

 さて、今回は増田俊也さんの『七帝柔道記』を紹介します。立ち技をほとんどやらず、寝技中心の恐ろしい柔道が人知れず存在しています。

 



 

〇あらすじ!

 増田は高校時代に出会った七帝柔道に憧れて、二浪の末に北大に入学した。彼を待ち受けていたのは、「参った」しても落ちるまで締め続けるという異形の柔道、そして最下位脱出を目指してひたすら寝技を磨く先輩たちだった。

 

〇感想!

 旧帝大が鎬を削る七帝柔道は、オリンピックでも行われている講道館柔道とは全くの別物です。戦前の高専柔道の流れを汲んでおり、主流の柔道では禁止されている、自分から寝技に持ち込む「引き込み」が許されています。そのためいかに寝技で締めるか、そこから逃れるかがポイントになります。締めている相手の手を叩いて降参する「参った」をしても、気を失って落ちるまで締め続ける徹底ぶりです。作中では、口から涎を垂らしながら意識が闇に飲まれていき、そこでは三途の川を見ることがあり、意識が戻ってもすぐには自分が誰かここがどこか分からなくなる、と描写されています。生々しくて怖い・・・。こんな世界が存在したことに驚きです。

 なぜそこまでするんだろうと思いますが、寝技のみの柔道は練習すればするほど上達するもので、部員たちも自分たちのやっていることに自信を持っています。誰もが逃げ出す厳しい練習だからこそ、それを乗り越えたときには誰にも負けない自信が付くのだかもしれません。効率的なトレーニングが重視されることが多い現在、あえて時代に逆行するような内容なのは何か意味がありそうです。

 謎の儀式であるカンノヨウセイ、北大祭での焼きそば研究会など、北大ならではの面白い要素がいくつもあり、柔道以外の部分でも読みごたえがありました。著者の増田さんの経験を書いた自伝的な部分もあるようで、なんとなく小説というよりはエッセイを読んでいるような感覚でした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『武士道シックスティーン』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の剣道部の部員数は男子2万513人、女子1万2341人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ1%、だいたい100人に1人が剣道部に所属していることになります。命を賭けた武士の剣術から発展した剣道。数あるスポーツの中でも、剣道は「スポーツ」であると同時に「武道」でもあることを重視している気がします。

 さて、今回は誉田哲也さんの『武士道シックスティーン』を紹介します。武士のような少女とおっとりした少女が出会い、互いに成長していく物語です。

 

 

〇あらすじ!

 新面武蔵を心の師と仰ぎ、五輪の書を愛読する磯山香織は、全中準優勝という輝かしい実績を持つ実力者。そんな彼女が市民大会の4回戦で綺麗な正面打ちを食らい、まさかの敗北を喫する。雪辱に燃える香織は、対戦相手の「甲本」が進んだと思われる高校への進学を決める。

 

〇感想!

 とにかく香織のキャラが立っていました。彼女は宮本武蔵を心の師としており、剣道に全てを捧げています。その徹底っぷりはかなりのもので、勝負は斬るか斬られるか、自分以外は全てが敵と思い込んでいます。心の声まで武士口調。ただ猛烈な負けず嫌いな自意識過剰で、そのあたりは普通の16歳らしい気もしました。そんな奴いないだろと突っ込みたくなりますが、だからこそ物語をぐいぐい引っ張っていってくれます。

 そんな香織に、周囲の人々は否応なしに巻き込まれていきます。うっかり香織を破ってしまった「甲本」こと西荻早苗もその一人。勝負にはあまり執着しておらず、純粋に剣道が楽しいからやっている感じです。性格もおっとりしていて、香織とは真逆。彼女にライバル認定されてからは防具もつけずに竹刀でどつかれたり、手を踏みつけられたりと散々な目に合っています。それでも香織と仲良くなれるあたり、早苗の器の大きさを感じます。

 二人は同じ剣道部に所属し、主に香織が早苗をいじめる形で次第に交流を深めていきます。後半では「なぜ剣道をやるのか」というところにまで踏み込んでいくのですが、そこが一番読みごたえがあって面白かったです。前半のテンションからの落差に笑いつつも、香織や早苗の家族関係や過去も絡めながら見事に収束していくのにいつのまにか引き込まれていました。いくつも伏線が張られていることで、シンプルな結論にも説得力が出てきますね。

 武士道シリーズは、セブンティーン、エイティーン、ジェネレーションと続いていくようです。彼女たちがこれからどう成長していくのか、続きを読んでみたいと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『ペダリング・ハイ』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の自転車競技部の部員数は男子が1503人、女子が149人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.05%、だいたい1800人に1人が自転車競技部に所属していることになります。自転車と言えば身近な乗り物ですが、ロードバイクにはまた違った魅力があります。

 さて、今回は高千穂遙さんの『ペダリング・ハイ』を紹介します。社会人の自転車競技サークルに入った大学生がロードバイクの魅力にのめりこんできます。

 

〇あらすじ!

 大学進学で上京した竜二は、伯父から錆びだらけのクロスバイクをもらう。持ち込んだ調布の自転車屋で自転車の社会人チームに出会い、彼らに乗せられて乗ったロードバイクの加速に魅せられる。FELTのFR30というロードバイクを購入し、調布ゴブリンズに期待の新人として迎えられることになる。

 

〇感想!

 ロードバイクはママチャリと違って「速く走る」ことに特化しており、不要なものをすべて取り除いたようなシンプルさと自分の肉体がエンジンとなるのがカッコいいですね。自転車競技はチームスポーツでもあり、エースを勝たせるために集団を形成したり温存する作戦を立てたりするのは初めて知りました。また、作中では調布周辺の地名が多く登場するので、知っているとより楽しめそうでした。

 本作に登場するチームのおじさんたちがとにかく素敵でした。学校の部活における年の近い者同士の空気感もいいのですが、年齢を重ねた人間ならではの丁寧さや包容力といったものも大変魅力的でした。偶然会っただけの竜二をロードバイクに誘った責任があると、リーダーの塩山さんを中心にしっかりした指導をしてくれますし、一つ一つ理由を説明してくれるのも竜二を一人前扱いしてくれている感じがしました。もちろん交通ルールもきちんと守ります。制約の中で真剣に努力し、かつ最大限楽しむ感じは流石大人ですね

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『ボックス!』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のボクシング部の部員数は男子のみで1950人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.06%、だいたい1500人に1人がボクシング部に所属していることになります。テレビでは頻繁にタイトルマッチが放送されている気がしますが、部活としてやっているところは少ないようです。

 さて、今回は百田尚樹さんの『ボックス!』を紹介します。お調子者の天才と、真面目な努力家。何から何まで正反対な二人がボクシングに打ち込んでいきます。

 

 

〇あらすじ!

 耀子が不良グループに絡まれていると、少年が風のようにやってきて全員打ちのめしてしまう。教え子の優紀から、それは彼の幼馴染の鏑矢であると教えられる。お礼を言いに行くと、鏑矢は鼻からうどんを出してみんなを笑わせているところだった。あまりの姿に耀子は失望するが、体の弱い優紀は強い鏑矢に憧れており、あるきっかけから自分もボクシングをやりたいと思うようになる。

 

〇感想!

 ボクシングセンスは抜群だが、同時に抜群に頭が悪い鏑矢。幼いころからぜんそく持ちだが、特待生になるくらい勉強ができる優紀。経験者対初心者、天才対努力家、お調子者対真面目、問題児対優等生。徹底的なまでに正反対の二人は幼なじみで親友であり、いずれはボクシングのライバルになっていきます。鏑矢はボクシングの才能は圧倒的ですが、異常とも思えるくらいに奇矯な言動の方が目立ちます。他人の心が分からないし分かろうともせず、天才であるがゆえの傲慢さが過剰なくらいに描かれていました。小説のための創作なのか、ボクシング界には本当にそういう天才がいるのかは分かりませんが、実際のプロ選手による試合前の煽り合いを見ると後者もありえそうです。それに対し、語り手でもある優紀は秀才ながら地道な練習にも真面目に取り組み、全くの初心者としてボクシングを教わっていくので、ボクシングを知らない読者も感情移入しやすい気がしました。ですが物語が進むにつれて、その構図が変化していくところが本作の読みどころだと思いました。作品全体からは腕力による男らしさを魅力の最上位に置く雰囲気があって、あえて時代の流れに囚われない感じも受けました。

 ボクシングについてかなり詳しく書かれているので、初めて知ることが多かったのも面白かったです。ボクシングと言えば、激しい殴り合いで出血や気絶といった危険が付きまとうイメージがありましたが、アマチュアの試合では安全面に関して様々なルールが整備されていることはあまり知りませんでした。また、優紀に対する沢木監督の指導も、丁寧に理屈を教えたうえで一つずつ必要な技術を身に付けていく感じで好感が持てました。ボクシングの練習は想像以上に地味で厳しいもので、軽い気持ちで初めても続かないのも分かりました。細かなルールがあって地道な努力が必要なボクシングは、ただの喧嘩ではなくれっきとしたスポーツだと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『頼むから、ほっといてくれ』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の体操部の部員数は男子1674人、女子2506人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.13%、だいたい750人に1人が体操部に所属していることになります。体操と言えばオリンピックでは定番の人気種目ですが、高校の部員数は思ったよりも少ない?そして女子が多いのもやや意外でした。

 さて、今回は桂望実さんの『頼むから、ほっといてくれ』を紹介します。普通の部活動ではなく、ナショナルチームに所属してオリンピックを目指す若者たちを描いています。

 

 

〇あらすじ!

 トランポリンの大会で途中までしか演技することができず、悔し涙を流す順也。大人しかった息子の流す涙に、母の明美は罪悪感を覚えていた。青山はナショナルチームの監督として選手とどう接すればいいのか悩んでいた。体操選手の父母を持つサラブレッドの遼、大会で実力を発揮できない慌て者の慎司、お調子者の洋充、緊張したことがない卓志たちも、将来のことに悩みつつも練習に励んでいた。

 

〇感想!

 本作は世間的にはあまり知られていないトランポリンの世界を描いています。全身を使って何度も空高く飛び上がるトランポリンはなんとなく楽しそうなイメージがありますが、本作に登場する選手たちはそれぞれに葛藤しながらトランポリンと関わってきました。それは単に体の使い方の話だけではなく、もっと切実な問題です。トランポリンに限らず、マイナー競技はそれだけで生活するのが大変です。スポンサーが付くのはごく一部だけで、真剣に取り組みたいと思っていても、生活するためには働いてお金を稼ぐ必要があります。競技を優先するために何を犠牲にするのか、時には諦めるといった選択肢も選ばざるを得ません。ただ楽しい部分だけを描くのではないところが本作の見どころの一つとなっています。

 マイナー競技者にとって、オリンピックは最高の舞台になります。4年間オリンピックを目指してきつい練習を耐えています。ですが、日本中の注目が集まるあまり、選手に日本という国を背負わせてしまうことにもなります。「頑張れ」という言葉は便利ですが、無責任な期待を押し付けているのでした。まさに「頼むから、ほっといてくれ」という言葉がぴったりです。

 本作の面白いところは、選手たちがエリートばかりではないというところでした。優秀な子が突然引退したり、オリンピックの大舞台で不完全燃焼で終わってしまったり、一度引退した後にカムバックしたりと、まさに人生いろいろ。現実だと、スポーツ選手というと優秀な若い選手にばかり注目が集まり、その人が失敗したとたんに手のひらを返したような扱いを受けることが多い気がします。それだとどうしても「消費」的な見方になってしまって心から楽しめないし、有望な選手を潰してしまうことにもなってしまいます。かと言って、全く注目されなければその競技そのものが廃れていってしまうのも、また難しいところですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『DIVE‼』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の飛び込み部の部員数は男子が29人、女子が48人でした。ただし、水泳部の方に含まれている場合もあり、実際はもうちょっと多いようです。飛込みには怖い、痛いといったイメージが付きまとうためか、競技人口はかなり少ないです。また、飛込みには水深5m以上のプールが必要で、練習場所もかなり限られると思われます。だからこそ、中高生にもオリンピックのチャンスがあるとも言えます。

 さて、今回は森絵都さんの『DIVE‼』を紹介します。美しくも過酷な飛込みの世界で、中高生たちがオリンピックをかけて競い合います。

 

 

〇あらすじ!

 またこんなところにきてしまった。高さ10mの飛込み台の前にきてから、知季は後悔する。着水に失敗すれば身体を強く打ちつけることになる。頭によぎるのは恐怖と痛み。それでも水に受け入れられたときの心地良さは一瞬で全てを忘れさせてくれる。マイナー競技の、経営の傾いたクラブにやってきたのは、勝気でやる気に溢れたコーチの夏陽子。彼女の猫のような目は、知季の中に秘められた最高の才能を見出し、彼に対して中学生としては異例の三回転半に挑むよう告げる。

 

〇感想!

 高さ10mの飛込み台から、時速60キロの速さで飛ぶ。その間、たった1.4秒。その一瞬に魅せられた男の子が、仲間たちと競い合いながら、時に悩みながら成長していく様子が描かれています。飛込みには5m、7.5m、10mの飛込み台から飛び込む「高飛込み」と、1m、3mの弾性のある飛び板から飛び込む「板飛込み」があります。本作では高飛込みの選手たちが物語の中心となります。

 本作には個性豊かな登場人物たちが登場し、物語をリードしてくれます。特に、アメリカ帰りのコーチである夏陽子のパワフルさには、主人公ともども圧倒されます。言いたいことを言ってぐいぐい引っ張ってくれる頼もしさは、案外これまでいなかったコーチ像な気がしますね。高校生の要一と飛沫もライバルであると同時に飛込み仲間といった感じで、互いに高めあっている感じが好きです。

 演技自体はまばたきするほどの間ですが、毎日長時間の練習を繰り返す必要があります。美しい姿勢で演技するために陸上練習をしたり、器具を使って技を再現したりする必要もあります。知季自身も不満を抱えている上に、彼女ともうまくいっておらず、「このときはまだ・・・」みたいな不穏なモノローグまで挟まれます。結果、弟に彼女を取られることになり、それがまさかの第1巻のクライマックスでした。スポーツ小説では厳しい練習か普通の生活かの二択を迫られることが多いですが、児童文学としては斬新すぎる本作の展開には正直言って驚きました。まだ1巻しか読めていないのですが、飛込みの方では報われることを願います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『北風 小説 早稲田大学ラグビー部』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のラグビー部の部員数は男子1674人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ0.13%、だいたい750人に1人がラグビー部に所属していることになります。近年急激に注目されているラグビー。2015年のW杯では、南アフリカに歴史的な勝利をして一躍話題になりました。2019年に日本で開催されたW杯では、史上初のベスト8進出。スローガンの「ONE TEAM」は流行語大賞も獲得しています。

 さて、今回は藤島大さんの『北風 小説 早稲田大学ラグビー』を紹介します。著者の藤島さんは早稲田大学ラグビー部出身。日本ではラグビーが大学スポーツとして発展してきたという歴史があり、伝統のある早慶戦早明戦はテレビでも中継されています。

 

 

〇あらすじ!

 福島のツッパリだった草野点は高校でラグビーに目覚め、日本一を目指す早稲田大学ラグビー部に入部する。そこで待っていたのは、想像以上に厳しい練習と無関心なようで優しい先輩たちだった。

 

〇感想!

 副題に「早稲田大学ラグビー部」と入っているように、本作は早稲田大学ラグビー部をそのまま小説化したような作品になります。無骨な感じの独特の文体で、ラガーマンのようながっしりした勢いがありました。

 読み始める前は、ラグビーのために生まれてきたような体格に恵まれた「強者」たちの根性論が展開されるのかなと思っていたのですが、その予想は見事に裏切られました。早稲田のラグビー部にはむしろ「弱者」が多かったのです。早稲田にはほかの私学にあるようなスポーツ推薦枠がなく、入学するには付属高校から進学するか、受験勉強をしっかりやって試験を突破する必要がありました。早稲田と言えば慶応と並んで私大トップクラスの偏差値を誇ります。そのため、高校までラグビー漬けだったような生粋のラガーマンは少なかったのでした。

 そんな「弱者」を練習で「強者」にするというのが早稲田の伝統でした。もちろん練習自体も厳しいもので、特注の器具を使って文字通り血のにじむような練習をひたすら繰り返します。また、「グラウンドを一秒でも歩いてはならない」という掟があり、下級生のうちは練習着の色まで指定されています。ですが、現実の体育会系につきものの無意味な上下関係が存在しません。上級生が下級生を理不尽にいじめることはなく、むしろどうすれば強くなれるのかを教えてくれる校風があるようでした。本作は現実の早稲田ラグビー部を下敷きにしているので、実際の雰囲気にかなり近いのだろうと思われます。

 スポーツ小説を読んでいると、実際の体育会系はこんな爽やかじゃないだろうと思うこともありますが、本作のように校風一つでこんなに変わることもあるのだと思いました。ちなみに「北風」というのは早稲田大学ラグビー部の部歌のことだそうです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。