本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『チーム!』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年の卓球部の部員数は男子4万7149人、女子2万1064人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ2%、だいたい50人に1人が卓球部に所属していることになります。温泉卓球などで身近なイメージもありますが、プロの卓球選手を見ると力強いスマッシュや台にへばりつくような粘り強さに驚きます。独特な掛け声も印象深いですね。

 さて、今回は吉野万理子さんの『チーム!』を紹介します。卓球部の小学生たちが様々な問題を乗り越えて一つのチームになっていく児童文学になります。

 

 

〇あらすじ!

 大地は先生から5年生の純とダブルスを組むように言われる。純は真面目に練習に取り組んでいたが、大地は最後となる市大会ではいい成績を残したいと思っていた。女子の方でもトラブルが発生し、さらには大地の父の会社で飲酒運転の事故が起きてしまう。(『チームふたり』)

 

〇感想!

 小学校の卓球部を舞台に、少年少女たちが真剣に卓球に励みます。たかが小学生の部活、しかも市大会が中心の話ですが、卓球に対する彼らのひたむきで真摯な姿勢には素直に好感が持てます。大地が主人公の『チームふたり』、大地とペアを組んでいた純が6年生になった『チームあした』、純とペアを組んでいた広海が主人公となる『チームひとり』、ぜんそく持ちだけどチームに貢献したいミチルが主人公の『チームあかり』、大地の妹の陽子が新しくできたクラブチームに専念する『チームみらい』、そして、彼らのその後を描いた『チームつばさ』と、次々と世代がつながっていくのが本作の特徴です。先輩に教わったことを後輩に伝えていくのも学校の部活らしさが表現してあって面白かったです。第1作の主人公の大地が中学生になってどんどん頼もしくなっていくのも新鮮でした。

 卓球のダブルスには、テニスやバドミントンなどの他のスポーツにはないルールが存在します。それはペアが必ず交互に球を打たなければならないということです。そのためにはペアの息があっていることが大切で、相棒の調子が悪ければ自分がカバーすることもできます。逆に相手に引っ張られて自分が成長することもあり、意外と奥深いことが分かりました。初めはトラブルでぶつかってばかりの二人の間に自然と信頼関係が芽生えていくのが、スポーツの面白さのひとつですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『青が散る』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のテニス部の部員数はソフトテニスが男子3万9356人、女子2万8515人、硬式テニスが男子4万2765人、女子が2万7356人でした。高校生全体は約300万人なのでおよそ4%、だいたい23人に1人がテニス部に所属していることになります。軟式と硬式は同じくらいの規模だったようです。

 さて、今回は宮本輝さんの『青が散る』を紹介します。新設大学でのテニスと恋愛の日々、大学生らしい青春小説です。

 

 

〇あらすじ!

 新設されたばかりの関西の大学に入学した燎平は、自由奔放で屈託のない夏子と出会う。が、金子と共にテニス部を作ることになり、炎天下の元テニスコートづくりに励む日々を送る。

 

〇感想!

 舞台が新しく設置された大学ということで、グラウンドや講堂もこれから建設予定、上級生もいないという特殊な状況から始まります。サークルもないので自分たちで好きなものを作っていくことになります。主人公の燎平は夏子に一目惚れしたものの、奔放な彼女にうまくアプローチできず、流れで入ったテニス部の方に力を入れていきます。と言ってテニスコートさえないので、まずは土を運び込んでクレーコートを作り上げていくところから始めます。自分たちの手でコートを作るのはかなり無謀にも思えますが、文句を言いつつもやってのけるところは若さの賜物と言えそうです。

 何か一つのことに打ち込みたいと思っても、何に打ち込めばいいのか、本当にそれでいいのか分からない。今後の人生で役に立たないであろうテニスを一生懸命にやることに果たして意味があるのか。周りが大人になっていく中で、自分だけ何もないのではないか。子供でも大人でもないモラトリアム特有の気楽さと将来に対する不安がうまく描かれていたと思いました。登場人物たちはお互いに関西弁できつい言葉をズバズバ言い合いますが、本音を語り合えるのも若さでしょうか。

 テニスの試合は6ゲーム先取の3セットマッチ。長いゲームの中で多くのポイントを積み重ねる必要があります。また、基本的にサーブ側が有利とされており、勝つためにはどこかで相手のサーブをブレイクしなければなりません。逆に、サーブゲームをキープし続ければ、少なくとも負けることはないと言えます。途中で相手のペースになってしまったときは、ひたすら耐えてこちらに流れが来るのを待たなければなりません。本作の登場人物たちはみんな一見気楽なようでいて、実際は悩みや葛藤を抱えています。人生も長いスパンで見ると調子のいい時も悪い時もあって、それはテニスの試合のようなものなのかもしれませんね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『ラブオールプレー』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のバドミントン部の部員数は男子が6万9065人、女子が5万6227人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ4%、だいたい24人に1人がバドミントン部に所属していることになります。日本では世界と戦える若手の育成に力を入れており、最近目覚ましい活躍していますね。そのためか、高校の部員数でも、サッカー、バスケ、野球に次ぐ第4位に輝いています。

 さて、今回は小瀬木麻美さんの『ラブオールプレー』を紹介します。高校生が仲間たちと成長していく、直球のバドミントン小説です。

 

 

〇あらすじ!

 美人の先輩目当てに入部した亮だったが、バドミントンの面白さに目覚め、いつの間にか真剣に練習に取り組むようになった。そんな亮に横浜湊高校からスポーツ推薦の話が来る。息子の進路に興味がないと思っていた両親は亮に真剣に忠告し、成績優秀な姉はもっと熱くなれと言う。高校の練習では、榊や松田といった同年代の子と切磋琢磨していく。

 

〇感想!

 主人公は最初こそ美人の先輩に釣られて入部しましたが、途中からはバドミントンそのものが好きになり、真剣に取り組むようになりました。同じくバドミントンが好きな仲間たちと出会い、共に成長していきます。1巻しか読んでいませんが、主人公は終始前向きで、仲間たちもいいヤツばかりなので暗い展開になることもなくサクサクと進みます。恋愛的な要素も非常にあっさりしており、まさにバドミントン漬けの高校生そのものといった感じでした。

 仲間の一人に輝という子が登場します。バドミントン自体は初心者なので試合には当分出られませんが、作中では選手や対戦相手を的確に分析し、高校生離れしたコーチングを発揮します。交渉力もあって、大人相手にも落ち着いて論理的に意見を述べることができ、作中の誰からも信頼されています。先輩たちの引退後は経験者を差し置いて部長を務めているという描写もあります。彼はいったい何者なのでしょうか。

 本作を読んで感じたのは、バドミントンはとにかく相手の嫌がることをするスポーツだということです。相手が怪我をしていれば徹底的にそこを攻め、ダブルスなら弱い方を叩きます。時には声や態度で自分を強く見せたり、相手を揺さぶったりすることもあります。対戦相手のいるスポーツなので心理的な駆け引きの要素はもちろん重要ですが、本作では特に強調されていたと思いました。それ自体は別に卑怯なことではなく、むしろ手加減をする方が相手を侮ることになってしまいます。それくらい全力で真剣にバドミントンに向き合っているとも言えます。「相手がいる」ということがバドミントンの面白さの本質なのかもしれませんね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『2.43 清陰高校男子バレー部』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のバレー部の部員数は男子5万967人、女子5万5584人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ3%、だいたい30人に1人がバレー部に所属していることになります。運動部としては珍しく男子よりも女子の方が人数が多いみたいですね。

 さて、今回は壁井ユカコさんの『2.43 清陰高校男子バレー部』を紹介します。日本ではテクニック重視でラリーが続きやすい女子バレーの方が人気ですが、男子バレーのスピードとパワーのぶつかり合いはやはり圧倒的な迫力があります。

 



 

〇あらすじ!

 とげとげしい態度だが熱心にバレーに打ち込む灰島が転校してきて、ろくに練習もしなかった黒羽たち弱小バレー部もやる気を出す。意気込んで挑んだ県大会第二試合、緊張で動けない黒羽を無視するように、灰島はたった一人で試合を決めてしまう。黒羽は次の試合をさぼってしまうが、試合は惨敗。灰島とも決定的な亀裂が生まれてしまう。

 

〇感想!

 2メートル43センチとは、高校男子バレーの全国大会・春高でのネットの高さです。電話ボックスの高さが2メートル25センチだそうなので、選手たちはそれよりも遥かに高く飛び上がってスパイクを決めたりブロックを飛んだりすることになります。テレビでは上からのアングルが多いですが、実際にその場で見たら見上げるような空中戦が繰り広げられていることが分かります。1メートル以上のジャンプを試合中に何十回とするのもよく考えればすごいことですね。

 本作は、中学時代にとげとげしい性格の天才セッター・灰島公誓が転校してくるところから物語が始まります。灰島は前の学校でも他のバレー部員と衝突を繰り返しており、激しく口論した部員が自殺未遂したことがトラウマとなっていました。黒羽が軽率に試合をさぼったことにより、灰島はバレー部に来なくなってしまいます。以上が中学時代の黒羽視点から語られ、続いて高校の女子バレー部荊視点、男子バレー部小田視点を挟んで、高校時代の黒羽視点に戻ってきます。中盤ではその後灰島がどうなっているのか断片的にしか語られないという、ちょっと焦らされる構成になっています。どの視点でも、ちょっとした意地の張り合いや思い違いから傷つけたり、傷つけられてしまいます。それでもバレーを通じて分かり合っていくというのが高校生の青春らしかったです。先輩たちも面倒見がよく、チームスポーツの良さみたいなものがよく描かれていたと思います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『走れ!T高バスケット部』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のバスケ部の部員数は男子8万3605人、女子5万2850人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ4%、だいたい23人に1人がバスケ部に所属していることになります。最近は日本でもプロリーグが発足するなど、バスケ熱が特に高まりを見せています。

 さて、今回は松崎洋さんの『走れ!T高バスケット部』を紹介します。連発されるギャグと流れるような展開に君は付いてこれるか!?

 

 

〇あらすじ!

 バスケ強豪校でいじめにより自殺寸前まで追い詰められた陽一は、都立T高に転校した。ほとんど公式戦で勝ったためしがないというT高バスケ部で個性豊かな仲間たちと出会ったことで、陽一は再びバスケを始める。

 

〇感想!

 本作の最大の特徴は、まるでバスケの速攻のような独特のテンポの良さだと思います。チビ、メガネ、のぞき魔、健太といった変人ばかりのチームメイトたちや小山先生のギャグと掛け合いの連続で、ギャグマンガのような、本当に終始ふざけているような雰囲気でした。ありえないと思っても、考える前に展開は次へ次へと進んでいます。本当に小説ならではというか、やりたい放題やってくれるのでむしろ清々しい気さえします。文体もさらっとしているので、駆け抜けるようにあっという間に読み切ってしまいました。

 恐らく作者は「楽しさ」を最も重視して本作を書いたのかなと思います。ありえる・ありえないといった次元を超越した何かを本作から感じました。結果が求められるプロ選手ならともかく、スポーツは楽しいからこそやるものです。Sportsという言葉はラテン語の「deportare」から来ており、もともとの意味は「運び去る、運搬する」、そこから転じて「気晴らし」「遊び」を意味すると言われています。スポーツ小説では、勝負に執着するあまり楽しさを忘れてしまうという展開がよくありますが、本作のような楽しさの表現は実はあまりなかったような気がします。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『ホケツ!』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校体育連盟によると、令和4年のサッカー部の部員数は男子14万7082人、女子1万507人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ5%、だいたい20人に1人がサッカー部に所属していることになります。サッカー部は運動部の中で所属している人数が最も多い、現在最も人気の部活となっています。

 さて、今回は小野寺史宜さんの『ホケツ!』を紹介します。華々しく活躍するレギュラーたちの陰で、彼らも頑張っています。

 

 

〇あらすじ!

 伯母に対し、試合に出場していると嘘を吐いてしまう大地。彼は3年になってもレギュラーになれず、同じポジションにはうまい1年生が入ってきた。さらには、マネージャーから他の選手との仲を取り持ってくれるように依頼されてしまう。

 

〇感想!

 サッカー部といっても試合に出られるのは一握りだけ。スポーツは実力がすべて。本作の主人公は、サッカー部に所属しながらいつもベンチを温めている大地という高校生が主人公です。試合には出してもらえず、練習ではパサー役、キッカー役、ゴールキーパー役と都合よく使われ、レギュラーとして出場している仲間たちに文句の一つも言えません。加えて、女の子からは他の部員との仲を取り持ってくれるキューピッドとして期待される始末。

 それでも、本作には独特の不思議な雰囲気があります。読み進めていくと、大地は親しみやすく優しい人柄から多くの部員たちから頼りにされていることが分かります。悩んでいる人がいれば損得関係なく関わっていき、話を聞いてアドバイスをします。人前に出て引っ張っていくタイプではないものの、大地に話を聞いてもらった人たちは彼をとても信頼していることが分かります。彼はなにも持っていないわけではなく、一緒にいる人を安心させるような誠実さや器の大きさといった人間性を備えているのでした。どうしても目立った活躍をしている人に目が行ってしまいますが、もし大地がいなければこのチームは崩壊していたんじゃないかとも思います。

 サッカー外でも、育ての親である伯母とのシーンがかなり好きです。大地は伯母に迷惑を掛けたくないと思っていますが、立派に自立している伯母は彼に経済的な不安を抱かせる気は全くありませんでした。それでいて大地をちゃんと一人前と認め、彼の意見を最大限尊重してくれます。最近こういうのに弱くて困ります。試合に出られなくてもここまで面白い、心温まるスポーツ小説は初めてでした

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『バッテリー』紹介

 こんにちは。

 突然ですが、秋と言えばスポーツの秋!気持ちのいい秋空に過ごしやすい気温、身体を動かすにはもってこいの季節になりました。

 と言うわけで、10月のテーマは『スポーツ』です。

 全国高等学校野球連盟によると、令和4年の硬式野球部の部員数は全国で13万1259人でした。高校生全体では約300万人なのでおよそ4%、つまり23人に1人が野球部に所属していることになります。近年は惜しくも部員数1位の座はサッカーに明け渡してしまいましたが、日本ではまだまだ根強い人気があります。特に春夏の甲子園は毎年注目されますね。

 さて、今回はあさのあつこさんの『バッテリー』を紹介します。

 

 

〇あらすじ!

 ピッチャーとして圧倒的な才能と絶大な自信を持つ巧は、雪と新緑の混じる新田市に引っ越してきた。ランニングを始めるが途中で道に迷い、大柄な少年・豪に出会う。豪のつかみどころのない性格にいらつく巧だったが、豪は巧の投げる速球を5球で捕まえてみせる。

 

〇感想!

 本作の見どころとしては、やはり原田巧という主人公が持つ、児童文学らしからぬプライドの高さが真っ先に挙げられます。巧は誰にも自分の思ったことを話さず、常に周囲に対してイライラしています。初めて会う豪や大人たち、息子である自分のことをよく知らない父に辛らつな言葉を投げかけ、自分に憧れる病弱な弟にも容赦ありません。その傲慢さはとても少し前までランドセルを背負っていたとは思えないほど。普通だったら主人公のライバルや敵役になりそうな性格ですね。敵役なら試合を経て熱血主人公に感化されているところでしょうが、そこは主人公だけあって簡単には折れません。むしろ誇り高さを貫いてほしいくらいです。

 ですが、巧はプライドの高さを補って余りある野球の才能の持ち主でもあります。その才能は豪や元野球部の大人たちを魅了し、周囲を動かしていきます。スポーツの世界では、やはり実力があることが物を言います。圧倒的なプレイはただ見ているだけで心が動きます。不思議なことに、全く知らない分野であっても、うまいプレイというのは誰が見ても美しく見えますよね。「うまい」だけじゃなくて「美しい」と感じるのは、

 『バッテリー』シリーズは全6巻、スピンオフとして『ラスト・イニング』という作品もあります。実は昔読んだことがあるはずなのですが、恥ずかしながら全然内容を覚えていませんでした。大人になってから読み返すとまた見方が変わっているのも面白いですね。これから巧が高すぎるプライドを守れるのか、それに対して豪がどう行動するのか、楽しみです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。