『鼻』紹介
明けましておめでとうございます。
一年の計は元旦にあり、と言います。今年が良い年になるよう、お正月から良いスタートを切りたいですよね。小説においても初めの一文は重要で、良い書き出しはいきなりその世界観へと引き込んでくれます。
というわけで、新年一発目のテーマは『書き出し』です。
さて、今回は芥川龍之介さんの『鼻』を紹介します。
〇書き出し
禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下がっている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下がっているのである。
〇感想
『鼻』は、タイトル通りにいきなり鼻の話から始まっています。ストレートに本題から入っていけるのは、コンパクトな短編ならではですね。池の尾とは、現在の京都府宇治市にある地名のことです。その後すぐに内供の鼻の描写が続きます。1寸は約3cmなので、15㎝~18㎝くらいの鼻だったことになります。それだけの長さであれば、内供がコンプレックスに感じるのも無理はないように思います。内供は鼻を小さくするためにお湯で茹でて踏ませようとします。施術は無事成功し、内供の鼻は普通の長さになりますが、内供はまだ周囲に笑われているように感じてしまいます。
ありえない設定は作られた昔話のようにも感じますが、自分の体にコンプレックスがあってどうにかしようとするのは、実は現代人にもよくあることですね。極端なダイエットや整形は、内供と同じように他人の目を気にする自尊心から来ています。身体的な問題というより劣等感を感じる心の問題だというのは、芥川の鋭い分析力を感じました。
この話の元ネタは『古今和歌集』や『宇治拾遺物語』だそうで、容姿に対するコンプレックスの悩みは平安時代にもあったことが窺えます。そう考えると、人間の悩みはいつの時代もそれほど変わらないのかもしれませんね。
ここまで読んでくださってありがとうございました。