本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『蜘蛛の糸』紹介

 明けましておめでとうございます。

 一年の計は元旦にあり、と言います。今年が良い年になるよう、お正月から良いスタートを切りたいですよね。小説においても初めの一文は重要で、良い書き出しはいきなりその世界観へと引き込んでくれます。

 というわけで、新年一発目のテーマは『書き出し』です。

 さて、今回は芥川龍之介さんの『蜘蛛の糸』を紹介します。

 

 

〇書き出し

 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。

 

〇感想

 『蜘蛛の糸』は、昔話のナレーションのような語り掛けで始まっています。丁寧な言葉遣いからは、登場人物たちよりも一段上の、いわゆる神の視点から眺めていることがわかります。最初は不思議で美しい極楽の様子が描写されます。極楽にも朝があって蜘蛛がいることが分かります。御釈迦様は蓮池を通して地獄を見ていました。それから、かつて蜘蛛を殺さなかった犍陀多のために、蜘蛛の糸を垂らしました。地獄は極楽とは正反対に暗く不気味な様子です。犍陀多は上から伸びてきた蜘蛛の糸を登り始めます。犍陀多が後から登ってきた罪人たちを罵倒すると、蜘蛛の糸は切れてしまいました。御釈迦様は悲しげな顔でどこかに行ってしまいます。地獄で何が起こっていようと、極楽は一向に変わらず、時間だけは昼になっていました。もし犍陀多が罵倒しなかったら、彼は極楽に行けたのか。その場合後から登ってきた者たちも行けたのか。非常に短い話ですが、だからこそいろいろと想像できる余地がある気がします。

 本文によると、地獄と極楽の間は何万里と離れています。1万里は約3.9万㎞で、地球一周分に相当します。そこまで伸びる長さと言い、人が何人もぶら下がっても切れない強さと言い、極楽の蜘蛛の生態は不思議です。こちらのページによると、ある種のクモの糸は鉄や高強度合成繊維に匹敵する強さを持っているそうです。それに、半日間も糸を持って観察し続ける御釈迦様も、すごい握力と我慢強さですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。