本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『檸檬』紹介

 明けましておめでとうございます。

 一年の計は元旦にあり、と言います。今年が良い年になるよう、お正月から良いスタートを切りたいですよね。小説においても初めの一文は重要で、良い書き出しはいきなりその世界観へと引き込んでくれます。

 というわけで、新年一発目のテーマは『書き出し』です。

 さて、今回は梶井基次郎さんの『檸檬』を紹介します。

 

 

〇書き出し

 えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。焦燥と言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。それが来たのだ。これはちょっといけなかった。

 

〇感想

 梶井基次郎の『檸檬』は、不気味な心理描写から始まります。「えたいの知れない~」の一文は、その内容に反して、声に出して読んでみると妙にリズムが良いです。語り手は、正体の分からない「何か」に抑圧されているようです。続く文章では、二日酔いに喩えられています。二日酔いの何とも言えないダルさは、誰にでも共感しやすい例と言えます。その後も、以前美しいと感じたものに気持ちが付いてこなくなったと書かれています。抽象的でリズムのいい一文で読者をひきつけた後、具体的に説明を加えていくという造りになっています。

 そして終盤に登場するのが、タイトルにもなっている檸檬です。八百屋で見つけた色鮮やかな檸檬に惹かれ、色や形、冷たさ、匂いなどを味わいます。そして丸善の本棚に檸檬を置いて外に出て、それが爆発するという妄想をして終わります。かなり印象的なシーンで、今でも京都の丸善にはレモンを置いて帰る人がいるそうです。

 レモンは寒さに弱いため、冬は温暖で夏は乾燥している地中海性気候の地域が栽培に適しています。イタリアのシチリア島南カリフォルニア、日本では瀬戸内海が主な産地となっています。ちなみに作中に登場するレモンは、カリフォルニア産と描写されています。こちらのページによると、2019年のレモンの輸入量はアメリカが半分を占めているそうです。現在はレモンがエッセンシャルオイルとして利用されることもあり、レモンの匂いには本作と同じように憂鬱を吹き飛ばすリラックス効果があるようですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。