本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『坊ちゃん』紹介

 明けましておめでとうございます。

 一年の計は元旦にあり、と言います。今年が良い年になるよう、お正月から良いスタートを切りたいですよね。小説においても初めの一文は重要で、良い書き出しはいきなりその世界観へと引き込んでくれます。

 というわけで、新年一発目のテーマは『書き出し』です。

 さて、今回は夏目漱石さんの『坊ちゃん』を紹介します。

 

 

〇書き出し

 親譲りの無鉄砲で小供のときから損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かした事がある。なぜそんな無闇をしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。と囃したからである。小使に負ぶさって帰ってきた時、おやじが大きな眼をして二階から飛び降りて腰を抜かす奴があるかと云ったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

 

〇感想

 『坊ちゃん』は、主人公の性格を簡潔に述べたリズムのいい一文です。声に出すとテンポが良く、妙に記憶に残るインパクトがあります。この後に子供時代の具体例が挙げられていく構成となっています。上に引用したエピソードも、小噺風で洒落が利いています。いたずらばかりしていた主人公は父にも母にも期待されませんでしたが、下女の清には「坊ちゃん坊ちゃん」と可愛がられて育ちます。「親譲りの無鉄砲」な坊ちゃんは中学教師となり、四国で教師や生徒たちとぶつかり合います。教師たちにあだ名を付けたり、生意気な生徒たちとやり合ったり、恋愛沙汰から天誅を加えたりと、本人はいたって真剣なのにどこか楽しそうにも見えます。この辺のユーモアが、漱石作品の中でも最も強いのが本作だと思います。また暴力に訴える場面もあるのですが、坊ちゃんのからっとした江戸っ子気質のためか、気楽にあっさりと読めます。最後に清と一緒に暮らせるようになったのも微笑ましい終わり方です。

 本文では、四国の中学教師の月給は「四十円」だったと書かれています。今の高校教員の初任給が20万円くらいだそうなので、当時の1円は今の5千円くらいの価値があったようです(正確には、当時と今とで教員という仕事の価値が違っていますが)。別の個所では「九円じゃ東京までは帰れない」とありますが、さっきの理屈に従うと、9円は現在の価値で4万5千円になります。松山ー東京間が5万円近くかかったのは、当時の交通事情を考えると当然の気もします。古い作品をそういう観点で読んでみても面白いかもしれませんね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。