本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『蟹工船』紹介

 明けましておめでとうございます。

 一年の計は元旦にあり、と言います。今年が良い年になるよう、お正月から良いスタートを切りたいですよね。小説においても初めの一文は重要で、良い書き出しはいきなりその世界観へと引き込んでくれます。

 というわけで、新年一発目のテーマは『書き出し』です。

 さて、今回は小林多喜二さんの『蟹工船』を紹介します。

 

 

〇書き出し

「おい地獄さ行ぐんだで!」

 二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛が背のびをしたように延びて、海を抱え込んでいる函館の街を見ていた。——漁夫は指元まで吸いつくした煙草を唾と一緒に捨てた。巻煙草はおどけたように、色々にひっくりかえって、高い船腹をすれずれに落ちて行った。彼は身体一杯酒臭かった。

 

〇感想

 『蟹工船』は、なんとも薄気味の悪いセリフから始まります。強い訛りがあり、エクスクラメーションマークの付いた強い語調です。しかもその行き先は「地獄」。この一言だけで不気味な世界観に引き込まれてしまいそうです。舞台は蟹工船と呼ばれる、カニをとって缶詰にする工場を備えた漁船です。そこは、出稼ぎ労働者たちが詰め合わせたように乗り込んでいる劣悪な環境でした。作中では、まるで豚小屋や糞壺のようだとも形容されています。監督と呼ばれる上司は、労働者たちを一人の人間ではなく金儲けの道具としか見ていません。労働者たちはそこで罪人のように過酷な労働を強いられます。冒頭のセリフの通り、まさに地獄のような労働環境でした。

 資本主義では、一部の人間が莫大な富を儲ける一方、貧困から抜け出すことのできない大量の人々も生み出します。ブラック企業が社会的に問題視されながらもなくならないように、それは時代が変わった現代でも同じと言えます。

 ところで、本作では労働者たちが北海道・東北地方の方言を喋ります。方言が登場するだけで、親近感のようなどこか懐かしい気持ちが沸いてきます。陰惨な描写の多い本作でも少しだけ救われる気がしました。たとえ聞いたことのない方言あっても、意味はなんとなく通じてしまうのも不思議ですね。今度、各地の方言をテーマに本を読んでみたくなりました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。