本をめぐる冒険

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世紀末は科学と魔法!? 歴代ベストセラー⑥~2000年

 こんにちは。

 突然ですが、みなさんはベストセラーの本は読みますか?

 古代世界最大の図書館はアレクサンドリア図書館と言われています。紀元前3世紀ごろのプトレマイオス朝で建設されたとされ、現在の紙製の本とは違いパピルス紙による巻物という形で所蔵されていたそうです。その蔵書数は40万巻とも推定されています。当時の学問の中心でもあり、3代目館長を務めたエラストテネスは地球の円周をほぼ正確に測ったことや、素数の判別方法である「エラストテネスのふるい」でも有名です。紀元前の出来事とは思えないスケールの大きさです。

 その後、図書館は戦火により焼失しましたが、2001年に同じエジプトのアレクサンドリア市に「新アレクサンドリア図書館」が建設されました。インターネットによる情報の収集も写真を見る限りかなり独特な外見の建物で、内装も映画に出てくるようなオシャレな雰囲気でした。もし機会があるのなら一度は訪れてみたくなりますね。

 ちなみにアマゾンの音声認識サービス「アレクサ」はアレクサンドリア図書館に由来するそうですよ。

 さて、前置きが長くなりましたが、出版科学研究所が発表している各年のベストセラーのランキングを見てみたいと思います。

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Tide HeによるPixabayからの画像

 

 今回は、20年前の2000年のベストセラーランキングを見てみたいと思います。

 ちなみに、2000年と言えば

  • 20世紀最後の年で「ミレニアムイヤー」と呼ばれました。20世紀最後の年を記念して2000円札が発行されましたが、使いにくさのためかすぐに姿を消しました。
  • 「IT革命」によりインターネットの利用が急速に広まりました。また、携帯電話が一般家庭にも広まるようになりました。2000年の携帯電話の普及率は75.4%で前年から10%以上増加しています。(総務省「通信利用動向調査」による)。
  • 2000年代の若者は「ゆとり世代」と呼ばれました。
  • 2000年生まれの有名人には、浜辺美波さん(俳優)、上白石萌歌さん(俳優)、伊藤美誠さん(卓球選手)などがいらっしゃいます。

 1999年に恐怖の大王は降って来ず、2000年問題(*1も大きな事件は起こりませんでした。そんな拍子抜け?な時代にどんな本が読まれたのか、見ていきたいと思います。

*1:2000年問題とは2000年になった瞬間にコンピュータが誤作動を起こしてしまうと考えられた問題。1999年なら99というように、西暦が上2桁を省略して扱うことにより2000年になったときにコンピュータが1900年であると誤認してしまうことからトラブルが起こるとされました。

 

順位 書 名 著 者 出 版 社
1 だから、あなたも生きぬいて 大平光代 講談社
2 話を聞かない男、地図が読めない女 アラン・ピーズ 主婦の友社・発行 角川書店・発売
3 ハリー・ポッターと賢者の石 ハリー・ポッターと秘密の部屋 J.K.ローリング 静山社
4 これを英語で言えますか? 講談社インターナショナル 講談社インターナショナル
5 「捨てる!」技術 辰巳 渚 宝島社
6 新・人間革命(7・8) 池田大作 聖教新聞社
7 太陽の法 大川隆法 幸福の科学出版
8 子どもが育つ魔法の言葉 D.L.ノルトほか PHP研究所
9 経済のニュースが面白いほどわかる本 日本経済編 細野真宏 中経出版
10 人生の目的 五木寛之 幻冬舎

(出版科学研究所『出版指標年表』より)

 

 と言うわけで、2000年のベストセラーは大平光代さん著『だからあなたも生き抜いて』でした。居場所をなくし荒れていた10代から、猛勉強の末に弁護士となって非行少年の更生に関わるようになった波乱の半生について綴った自叙伝になります。

 2位の『話を聞かない男、地図が読めない女』は、「なぜ男と女は理解し合えないのか」を脳の構造の違いから説明する脳科学系の本。このころから脳科学ブームが流行しはじめました。

 ハリー・ポッターシリーズからは『賢者の石』『秘密の部屋』がランクイン。魔法使いの少年ハリー・ポッターホグワーツ魔法魔術学校に入学し、仲間たちとともに宿敵ヴォルデモートに立ち向かいます。著者のJ・K・ローリングは新人作家でしたが、新しいファンタジーとして世界的なベストセラーになりました。翌2001年にはダニエル・ラドクリフ主演で映画も大ヒット。2016年に9年ぶりに8巻目『呪いの子』が刊行され、シリーズは完結しました。

 8位の『子どもが育つ魔法の言葉』はアメリカのカウンセラー・D.L.ノルトによる子育て世代向けの本。親が子供にどう接すればよいのかが優しい言葉で書かれています。子育てに不安を抱える親世代に広く支持されました。

 他にも英語や経済などどちらかと言えば実用的な本が売れていました。

 

 1990年にあった恋愛ブームはほとんどなくなり、むしろ男女差を脳科学的に捉える流れになっているのは面白いですね。恋愛というロマンチックで素敵なものに憧れるのではなく、脳の男女差という現実的に理屈で説明される方を好むようになったようです。

 その背景には、男女の働き方の変化という面がありそうです。総務省労働力調査」によると、1999年以降共働き世帯数が専業主婦世帯数を上回るようになりました。

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 高度経済成長期には正社員の夫と専業主婦の妻という形態が主流でした。景気悪化による非正規化や女性の社会進出が進むと、共働きの世帯が増えました。それに伴って恋愛観も変化したと思われます。熟年離婚が流行したのもこのころでした。

 簡単に言えば男女が平等に近づいたからこそ、夢から覚めてより現実を見るようになったのでしょう。

 子育ての本が良く売れたのは、先行き不透明な経済やすでに批判の多かったゆとり教育にも関係していそうです。分かりやすい内容や優しい言葉遣いは、不安を抱える親にとっても「魔法の言葉」だったのかもしれません。

 脳「科学」がブームになる一方、「魔法」使いハリー・ポッターや「魔法」の言葉にも注目が集まっているのは不思議ですね。

 次は10年後の2010年のベストセラーを見てみたいと思います。待ちに待った21世紀も10年目。その頃の日本人はどんな本を読んでいたのでしょうか。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。