本をめぐる冒険

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高度経済成長期のベストセラーは意外? 歴代ベストセラー②~1960年編

 こんにちは。

 突然ですが、みなさんはベストセラーの本は読みますか?

 本屋で平積みにされている本を見かけると、つい手に取ってみたくなります。本は再販制度があって定価で売ることが決まっているので、店内をどうレイアウトするのかで本屋さんの売り上げも決まってきます。書店員さんが工夫して並べていたり、個性的なポップを作ったりしているのを見るのも面白いですよね。

 出版科学研究所が発表している、各年のベストセラーのランキングを見てみたいと思います。

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Tide HeによるPixabayからの画像

 

 今回は60年前の1960年のベストセラーランキングを見てみたいと思います。

 ちなみに、1960年と言えば

  • 戦後から高度経済成長へ。所得倍増計画が発表されました。カラーテレビが放送開始された年でもあります。
  • 大学生を中心に安保闘争が激しかった時代でもあります。
  • 1960年生まれの有名人には、石田衣良さん(作家)、浦沢直樹さん(漫画家)、黒木瞳さん(俳優)などがいらっしゃいます。

 と、経済が急速に成長する一方、反発するように安保闘争が激化した面もある複雑な時代でした。そんな激動の時代にどんな本が読まれたのか、見ていきたいと思います。

 

順位 書 名 著 者 出 版 社
1 性生活の知恵 謝 国権 池田書店
2 頭のよくなる本 林 髞 光文社
3 どくとるマンボウ航海記 北 杜夫 中央公論社
4 敦煌 井上 靖 講談社
5 人生は芸術である 御木徳近 東西五月社
6 私は赤ちゃん 松田道雄 岩波書店
7 性格 宮城音弥 岩波書店
8 鳥葬の国 川喜田二郎 光文社
9 河口 井上 靖 中央公論社
10 黒い樹海 松本清張 講談社

(出版科学研究所『出版指標年表』より)

 と言うわけで1960年のベストセラーは、謝国権著『性生活の知恵』でした。いわゆる性生活のハウツー本で、日本人の性意識を変えた本と言われるそうです。2度の映画化もされています。

 3位の『どくとるマンボウ航海記』の著者である北杜夫さんは、漁業調査船に船医として搭乗した経験をもとに同作を書きました。独特の語り口によるユーモアたっぷりのエッセイとなっています。また『夜と霧の隅で』にて同年の芥川賞も受賞しています。

 井上靖さんは『敦煌』と『河口』の2作品がランクインしています。前者は当時発見された史実をもとにした歴史小説、後者は女性を主人公とした恋愛がらみの小説です。特に『敦煌』は罪を犯して肉を切り売りされそうになる女を買い取るところからはじまるなどドラマ性もありつつ、壮大な歴史を感じられる作品です。

 感想はこちらから。

itsutsuba968.hatenadiary.com

 

 6位の『私は赤ちゃん』は赤ちゃん目線から新米の親の不慣れな子育てを見た、という設定で書かれています。ユーモアたっぷりの文体や人間社会についての風刺など、『吾輩は猫である』のオマージュっぽい感じを受けました。

 8位の『鳥葬の国』はヒマラヤ探険隊の調査記録を一般向けにまとめたものです。鳥葬とはチベットに伝わる風習で、現在でも行われている埋葬方法です。

 10位の『黒い樹海』は、松本清張さんによる旅情ミステリー。5度もドラマ化されているなど根強い人気があります。

 

 ハウツー本あり、エッセイあり、歴史小説あり、紀行文あり、推理小説ありと、バラエティーに富んだラインナップとなりました。戦争の影響が濃かった1950年のランキングと比較すると、娯楽の傾向が強くなっているのが分かります。経済が成長し、生活にゆとりが出てきたためと思われます。

 意外だったのはやはり『性生活の知恵』ですかね。買うのに勇気がいりそうですが。

 この中でおすすめなのは『敦煌』です。広大な古代中国を舞台に繰り広げられるストーリーには歴史の大きさを感じられます。遠い過去にあった出来事なのにうまく想像力を搔き立てられるのは、歴史小説の醍醐味ですね。また、登場人物たちに妙に人間味があるところも面白いところです。

 次は10年後の1970年のベストセラーを見てみたいと思います。高度経済成長の末期の日本人はどんな本を読んでいたのでしょうか。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。