本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『はてしない物語』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

 私は、自分がこれまでに読んだあらゆるものの一部である。

セオドア・ルーズベルトアメリカの元大統領/1858-1919)

 さて、今回はミヒャエル・エンデさんの『果てしない物語』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 いじめられっ子のバスチアンは、古本屋で見つけた一冊の本『はてしない物語』を、まるで吸い寄せられるかのように盗んでしまう。罪悪感を覚えるバスチアンだったが、学校の屋根裏部屋に籠って『はてしない物語』をむさぼるように読みふける。

 ファンタージエン国では女王幼ごころの君が病に臥せ、各地で不吉な天変地異が発生していた。国を救う使命を託された10歳の少年・アトレーユの、何を探し求めるものかも分からない大いなる探索の旅が始まった。

 

 これこそぼくのために書かれた本だ、と思った。これこそ、ぼくにぴったりの本だ!

 

〇感想

 主人公はスポーツも勉強もできない太った少年で、学校ではいじめられ、家では父親との間に壁を感じていました。そんな彼は本を読むことがなによりも好きでした。本作は、登場人物であるバスチアンが作中で『はてしない物語』という小説を読んでいるという、入れ子のような構造になっています。作中の『はてしない物語』は、最初は一見普通のファンタジー小説の類いのように思えますが、上巻の終盤辺りから普通ではないことに気が付きます。作中の『はてしない物語』の中にはバスチアン自身を匂わせる箇所がいくつもあり、ついにはバスチアンの名前まで登場します。それは本当に彼のために書かれた物語でした。そして、本作はここから驚くべき展開を見せます。

 ここまで読んで、バスチアンが作中の『はてしない物語』に取り込まれていくように、現実の読者である私たちも、いつのまにか『はてしない物語』を夢中で読んでいることに気が付きます。いわゆるメタフィクション的な要素がある小説は他にもありますが、この没入感は流石名作と言われる作品だと思いました。本作は有名な児童書ですが、私は子供時代に読んだことがなかったです。そのことを思わず後悔してしまうくらい、大人になってから読んでも面白かったです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『風の影』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

 作家は本を始めるだけである。読者が本を終わらせる。

サミュエル・ジョンソン(イギリスの文学者/1709-1784)

 さて、今回はカルロス・ルイス・サフォンさんの『風の影』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 ダニエルは本屋を営む父に連れられて「忘れられた本の墓場」を訪れた。迷宮の中で彼を待っていたのは、フリアン・カラックスの『風の影』という一冊だった。その本は数々の出会いをもたらし、彼の人生をも変えてしまう。

 

 でも、ぼくには確信があった。あの本は、もう何年もまえから、あそこでぼくを待っていた。いや、おそらく、ぼくが生まれるまえから、ぼくを待っていたのだと。

〇感想

 「人生を変えてしまう本」とは、読書によって人生観が変わってしまうことに対してよく使う言い回しですが、本作でも文字通り登場人物の人生を変えてしまう本が登場します。10歳のダニエルは『風の影』という本を手にします。「忘れられた本の墓場」とは、時代と共に読まれなくなって世間から忘れられてしまった本が集まる場所で、この時点で本作の神秘的な雰囲気が出ています。ダニエルは『風の影』によって恋に落ちて失恋したり、本の作者のカラックスの過去を探ったりと様々な経験をすることになります。また、カラックスの著書を買い占めては燃やしてしまう「顔のない男」や、ダニエルたちの周囲を嗅ぎまわる危険な刑事も登場し、サスペンス的にも二転三転していきます。父の跡を継いで順当に本屋を経営すると思われていたダニエルでしたが、一冊の本を手にしたことで本当に人生が変わっていきます。「人生を変えてしまう本」は読書家にとっては憧れですが、文字通り命の危険がある本というのはちょっと恐ろしいですね。

 本作は、翻訳のおかげもあって印象に残る言い回しが多かったです。「風の影」や「忘れられた本の墓場」、「顔のない男」といった言葉選びも常に端的で、頭にすっと入って来やすかったです。スペイン文学は(多分)初めて読みましたが、神秘的な雰囲気とサスペンスのバランスよくて面白かったです。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『華氏451度』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

 古典とは、人々は称賛するが読まない本のことである。

マーク・トウェインアメリカの小説家/1835-1910)

 さて、今回はレイ・ブラッドベリさんの『華氏451』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 書物を読むことが禁じられている世界。モンターグは昇火士として書物を燃やす仕事をしていた。しかし、隣に越してきたクラリスという少女と話し、本を持っていた女を火あぶりにしたことで、本を燃やすという常識に疑問を持ち始める。

 

「わかりません。ぼくらは、しあわせになるために必要なものはぜんぶ持っているのに、しあわせではない。なにかが足りないんです。」

 

〇感想

 今は消防士のことは英語で「fire fighter」と言うそうですが、以前は「fire man」と言いました。本作に描かれているファイアマンは、火事を消すのではなく、本を燃やすのが仕事の昇火士のことです。本作は、「書物は燃やさなければならない」という、価値観や常識が反転したSF的な世界設定となっています。彼らは顔中真っ黒にしながら昇火器で本を焼き尽くし、そのヘルメットには「451」の数字が輝いています。華氏451度は摂氏に直すとだいたい233℃で、紙の燃え始める温度とされています。これが「摂氏233度」だと、なんとなく迫力に欠ける気がしますよね。見慣れた摂氏ではなく、華氏で言われることにより不気味さが増している気がするというのは面白いですね。

 本作はいわゆるディストピア小説で、書物を読むことも所持することも禁止される世界が描かれています。ディストピア小説は一見極端な世界を描いているようで、実は現実と変わらない部分もあってハッとさせられることがあります。家まで燃やすのは現代日本だと想像もできないですが、テレビやネットによって本が駆逐されてしまうのは残念ながら当てはまっている気がします。出版不況で本屋の経営が厳しくなっているとも言いますし、気軽に本が読めなくなる日が来たらと思うとちょっと怖くもあります。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『図書館戦争』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

 本の無い部屋は魂の無い身体のようなものだ。

マルクス・トゥッリウス・キケロ古代ローマの政治家/紀元前106-紀元前43)

 さて、今回は有川浩さんの『図書館戦争』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 子供の頃自分を救ってくれた図書隊員に憧れる笠原郁は、図書館の自由を守る図書隊に入る。体力は男子に負けなかったが座学が非常に苦手で、しかも上官である堂上はなぜか郁にだけ厳しい態度をとるのだった。

 そのとき良化隊員から本を取り戻してくれた隊員の方がいて、その人がとてもかっこよくてステキで凛々しくて頼もしくて、私もこんなふうになりたいと思ったんです。

 

〇感想

 本作は、表現の自由が制限され、図書館と検閲組織との間で武力闘争が起きている世界で、図書隊員たちの戦いの日々と恋愛模様が描かれています。最初はそんなこと起きるわけないでしょ、と思いながら読んでいましたが、読んでいくうちにいつのまにか世界観に引き込まれていく説得力がありました。ナチスドイツなど、現実でも思想統制として本が燃やされたことがあったと言いますし、今日でも表現の自由がニュースの話題になることが時折あります。現代日本では当たり前のように図書館で読みたい本が自由に読めますが、実はそれは恵まれたことなのかもしれません。

 また、本作は銃器の描写がかなり詳細で、アクションシーンもたくさん登場するので、頭の中で映像化しながら読んでも楽しそうです。実際、漫画化・アニメ化・実写映画化と盛んにメディアミックスが行われているので、登場人物たちを置き換えながら読んでも良さそうです。こちらの予想を大きく裏切る展開みたいなのはないのですが、期待通りというか王道的な話もいいと思います。続編も何冊か出ているようなので、機会があれば読んでみたいと思います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『図書室のキリギリス』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

 読もうとしない人は読めない人に劣る。

マーク・トウェインアメリカの小説家/1835-1910)

 さて、今回は竹内真さんの『図書室のキリギリス』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 詩織は学校司書として雇われることになった。最初の仕事は、校長先生が寄贈した『モーフィー時計の午前零時』の受け入れだった。彼は贈り主の名前は「円花蜂」にしてくれという。(『司書室のキリギリス』)

 詩織は学校司書としての採用が正式に決まる。事務長と山田風太郎について話した後、前任の永田さんの私物と思われる封筒を見つけるが、そこに入っていたのはHUNTER×HUNTERのコミックスだった。(『小さな本のティンカー・ベル』)

 詩織は新入生のオリエンテーションを担当する。だが、星野道夫の写真絵本『クマよ』に彼の最後の写真が載っていないと言われ、『小さな本の数奇な運命』には別の高校のバーコードが貼ってあったと言う。(『小さな本のリタ・ヘイワ―ス』)

 詩織は図書委員の有志を集め、読書会を開く。とりとめのない脱線を繰り返しながらも本を話題に盛り上がるみんなを、詩織は優しく見守っていた。その後、彼女が生徒に貸した本から見覚えのない白い羽が見つかる。(『読書会のブックマーカー』)

 詩織は文化祭の企画として、本のキャッチコピーを考えるブックマークコンテストと、好きな本について語り合うブックトークを開催する。本を通してバトンがつながっていく。(『図書室のバトンリレー』)

 

〇感想

 本作にはたくさんの本が登場するのですが、読書好きにはそれだけでもう楽しいです。読んだことがない本ばかりなので、いつか全部読んでみたいですね。また、本によって人と人とがつながっていくというテーマもとても魅力的でした。ただ楽しいだけでなくミステリー的な要素もありますが、どんな真実が分かっても前向きに終わってくれるので、こちらも優しい気持ちで読み終えることができました。

 本作では、詩織や図書委員たちが具体的に本を紹介し合います。読んだ本について他人の感想を聞くのは、自分が思ってもいなかった視点を知ることができるので楽しいですよね。本にキャッチコピーを付けたり、気に入った一文を紹介したりと、このブログでもやってみたら面白そうだと思いました。私自身は学校の図書室にはあまり通った記憶がないのですが、こんな図書室なら行ってみたいなと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『夢見る帝国図書館』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

 本の無い家は窓の無い部屋のようなものだ。

ハインリヒ・マン(ドイツの作家/1871-1950)

 さて、今回は中島京子さんの『夢見る帝国図書館』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 フリーライターをしながら小説を書いているわたしは、上野公園のベンチで喜和子さんに出会い、図書館についての小説を書くように言われる。喜和子さんにとって特別な思い入れがあるという上野の図書館は、彼女の半生とも深く関わっていた。

 

 もし、図書館に心があったなら、樋口夏子に恋をしただろう。

〇感想

 自由奔放なようでいて、どこか謎めいている喜和子さん。本作は、かつて帝国図書館と呼ばれていた上野にある図書館の歴史を辿りながら、喜和子さんの過去の謎に迫っていきます。福沢諭吉が提唱して作られたものの、蔵書が全くなかったという東京書籍館から始まる図書館の歴史は、それだけでもすごく読みごたえがありました。戦前は幸田露伴夏目漱石といった名だたる文豪たちがこぞって通い、その後も度重なる戦争に翻弄されながらも開館し続けました。図書館”が”樋口一葉”に”恋をしたり、黒豹が脱走して象の花子と会話したりと、歴史を題材としながらユーモラスな展開もあって読者を飽きさせません。実際に起きた事件や文豪たちの残した作品から、ダイナミックな物語を生み出す想像力が素晴らしかったです。

 上野と言えば動物園や博物館が有名ですが、図書館は行ったことがありませんでした。こんなに面白い歴史がある図書館なのに、私は恥ずかしながら何も知りませんでした。たまに大きい図書館に行くと、意外と人がたくさんいるなと思うことがあります。世間では読書離れと言われつつも、わざわざ図書館に行くという人は思ったよりもいるみたいです。上野の図書館にもいつか行ってみたいですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『さがしもの』紹介

 こんにちは。

 「秋と言えば」シリーズ、最後はもちろん読書の秋。10月27日~11月9日は「読書週間」でもあります。本を読むのにぴったりの秋の夜長には、せっかくなら「本についての本」を読むのはいかがでしょうか。

 というわけで、11月のテーマは『読書』です。

 良い本は私の人生におけるイベントである。

スタンダール(フランスの小説家/1783-1842)

 さて、今回は角田光代さんの『さがしもの』を紹介します。

 

 

〇あらすじ

 18歳のときに古本屋に本を売った。その後、大学の卒業旅行で行ったネパールで再びその本を見つける。(『旅する本』)

 恋人と行ったタイでマラリアに感染してしまう。療養中の暇つぶしを探していると、なぜか片岡義男星新一の文庫本を見つける。(『だれか』)

 出発直前に恋人と喧嘩し、一人で伊豆へやってきた。旅館のテレビ台の引き出しには詩集が入っており、そこには手紙が挟まれていた。(『手紙』)

 一人で自分のものとハナケンの荷物を仕分けているわたし。二人は本の趣味がそっくりだった。(『彼と私の本棚』)

 初めてできた恋人が、私の部屋にあった私のものではない本を読んでいた。その後なぜか私には不幸な出来事が続く。(『不幸の種』)

 色々な男を家に上げて一緒に寝るわたし。いろいろな人が買って書き込みをしては売るという伝説の古本の話を聞く。(『引き出しの奥』)

 新人賞の授賞式、ぼくは見知らぬ人たちに囲まれながら、岩壁のように本が積みあがったミツザワ書店とそこにいるおばあさんのことを思い出していた。(『ミツザワ書店』)

 入院中の祖母から、誰にも内緒でとある本を探してほしいと頼まれる。(『さがしもの』)

 初めてのバレンタイン、中原千絵子は初めての恋人に自分が一番好きな本を贈りたいと思う。(『初バレンタイン』)

 

〇感想

 本書には、本にまつわる短めの話が9つ収録されています。中でも全体的に男女の別れ話が多かった印象です。角田光代さんの作品は初めて読んだのですが、もしかして角田さんの好きなテーマなのかもしれませんね。読書好きという共通の趣味を持っていても別れはやってくるもの。合わないなら読まなければいい本とは違い、人間と別れる場合は大抵こじれます。本作の登場人物たちにも紆余曲折ありますが、最終的には自分なりの答えを見つけます。それが話のオチにもなっているので、一つずつさらっと読めて楽しめました。

 個人的には『旅する本』と『手紙』が印象に残りました。『旅する本』は、何度手放しても再会する不思議な本の話で、本当にそんな経験があったらおもしろそうだと思いました。『手紙』は、伊豆の旅館に残されていた本に挟まっていた手紙の話で、そんな情景がなんとなく浮かびそうです。私は普段自宅とか図書館とか電車の中とかで読書することが多いのですが、本作を読んでお気に入りの本を持って旅に出たくなりました。旅先で読むことでまた違った体験ができそうですね。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。