本をめぐる冒険

読んだ本の感想などを書いてみるブログ。

『クジラの骨と僕らの未来』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は中村玄さんの『クジラの骨と僕らの未来』を紹介します。高校生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 幼い頃から生き物が好きだった著者は、中学になってハムスターやタヌキの骨格標本を作っていた。高校時代の留学先のアルゼンチンではクジラに魅せられ、大学ではクジラの研究をすることになる。

 

〇私なりの感想文

 著者である中村さんは、子供の頃からの生き物好き。理科室などで見た骨格標本を自分の手で作ってみたり、水産大学ではクジラの研究のために南氷洋に行ったりと、本書で紹介されているエピソードは興味深いものばかりでした。中村さんは好きが高じてそのまま生物学者になってしまいます。好きなものを極めてそれを仕事にしてしまうのは、純粋にすごいことだと思います

 個人的には南氷洋に行ったときのエピソードが特に面白かったです。地球最後の秘境と呼ばれる南極への旅は想像するだけでわくわくしますし、そこでは普段は味わえないような自然の美しさや荒々しさを感じられるそうです。生物のいない南氷洋では「音がない」ことが印象深いというのも面白いと思いました。そこに住む鯨もスケールが大きく、多くの魚が入った胃袋は90キロもするそうです。図鑑の解説ではなく、実際に経験したことがそのときの気持ちも含めて書かれているので、感動を共感しやすかったと思います。

 この調査の最中に、反捕鯨団体シーシェパードがビンを投げて妨害をしてくるという事件がありました。ビンには酪酸と呼ばれる危険物質が入っており、一度匂いが染みつくと悪臭がなかなか消えないと言います。当然のことながら海に落ちればクジラを含む生き物に深刻なダメージを与えます。鯨を守りたいと思っているはずの団体がしていいこととも思えません。もしかしたら彼らは「クジラが好き」だから妨害をするというよりも、捕鯨を妨害をすること自体が目的になってしまっているのかもしれません。そのあたりが「生き物が好き」だから研究を行う著者とは真逆に見えました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『建築家になりたい君へ』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は隈研吾さんの『建築家になりたい君へ』を紹介します。高校生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 新国立競技場を設計した著者が、なぜ建築家を目指したか、これまでどんな建築を手掛けてきたか、建築に対してどのような考えをしてきたかを振り返りながら、建築家になるために何が必要かを論じる。

 

〇私なりの感想文

 「建築家」と言われると、一般人とは違った個性的で独創的な美意識を持っているイメージを想像してしまいます。テレビで紹介されているものの中には、芸術的で奇抜だが住みづらそうな建物や、何十億とかかるような派手な建物もあります。そんな独善的ともいえる建築家が多い中、隈研吾さんは「普通の人が使いやすいものが分かる人こそが建築家」だと考えているのだそうです。隈さんの建築家観はその生い立ちにも深く関わっており、本書ではその半生を辿りながら出会ってきた建築について分析的に見ています。

 隈さん曰く、建築家に必要なのは「時代を読む力」だそうで、本書の中でも彼の鋭い時代観が発揮されています。例えば1回目の東京オリンピックに建設された国立代々木競技場は、高さを演出することで経済的に急成長していたこの時代の日本を象徴しているといった風に、建物からその時代や人々の気分を見ていきます。建物という形あるものを作っていくために、目に見えない時代の流れや人々の心を読むというのがまた面白いですね。「東京一極集中により高層ビル化が進んだ時代が新型コロナで終わり、リモートワークの浸透により地価の安い地方への移住が進んでいく」という未来の捉え方もすごく興味深かったです。高層ビル化という大きなハコの流れでは人々はストレスを抱えることになりますが、それも解消されていくそうです。個人的には是非そうなってほしいですが。

 そういえば同じ課題図書である『すうがくでせかいをみるの』という絵本に、「すきなものでせかいをみる」という言葉が出てきました。数学や絵や虫といった、自分の好きなものを通して世界を捉えるという意味です。まさに建築という分野でそれを実践しているのが隈さんなのではないかなと思いました。読書をしていると、全く関係のない作者が実は同じことを主張している、ということがたびたびあります。そうした発見ができるのも読書の面白さのひとつですね。

 また、本書を読んで、隈さんはある日突然建築家になったというわけではなく、これまでの積み重ねが隈研吾さんという人間を形作っているのだと思いました。本作で指摘されている「時代を読む力」や「他人を説得する力」などは、一朝一夕で身に付くものではありません。建物に興味を持ってから多くの建物を見て自分なりに研究したからこそ、建築家になるための土台が形作られてきたのだと思います。それはおそらく、建築家だけでなく他のあらゆる職業についても言えそうです。いきなり新しい自分になることはできなくとも、少しづつ積み重ねていくことで成長に繋がっていくのだと思いました。

 本書は課題図書の中でも高校生向けに分類されています。高校生と言えば、将来の進路についてある程度本格的に考え始める頃でしょうか。『建築家になりたい君へ』というタイトルですが、建築家を目指している人はもちろん、進路に迷っている人にも読んでもらいたい一冊でした

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『その扉をたたく音』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は瀬尾まいこさんの『その扉をたたく音』を紹介します。高校生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 俺は老人ホームでサックスの神に出会った。体の奥に浸透するような、こちらを引っ張ってくれるような音色に惚れ、職員である渡部君に一緒に音楽を始めようと迫る。水木というおばあちゃんにも半ば強制的に買い物を頼まれるようになり、無職で暇を持て余していた俺は老人ホームに通うことになる。

 

〇私なりの感想文

 優しい世界観で主張するテーマもはっきりしているので、とても読みやすかったです。

かつてはミュージシャンを目指していたが、いつの間にかその情熱もなくなり、今はただ親のすねをかじっていた「俺」。時折高校時代の思い出も語られますが、30歳手前で無職という主人公は、今月これまで読んできた若い主人公たちに比べると、かなり現実寄りで悲哀に満ちています。高校生からしたら29はもうおっさんなのでは?と心配してしまいます。

 そんな「俺」も、水木のおばあちゃんに買い物を代行したり、本庄さんにウクレレを教えたりと、老人ホームでの出会いを通して他人と向き合っていけるようになっていきます。ですが、ただ楽しいだけではなく、認知症や病気といった高齢者ならではの展開もあっていろいろ考えさせられます。特に作中では「自分の子供に対する遠慮」も語られており、利用者たちの子供は全く出てきません。もちろんそれは無職の「俺」と違って働きに出ているからでもあるのですが、なんとなく寂しい気もします。かといって介護が理由の事件も起きているので、難しいところです。

 老人ホームで働いていて、サックスで主人公とコンビを組むことになる渡部君も、結構強烈なキャラクターでした。いつもはひょうひょうとしていてどこかとぼけたような感じの好青年なのですが、妙に肝が据わっていて時に年上の主人公にも歯に衣着せぬ物言いをします。高校時代に駅伝部に臨時で出場したというかなり具体的な過去が語られるのですが、どうやら瀬尾さんの『そしてバトンは渡された』という作品に登場しているようです。複数の作品で一つの世界観を共有している作家さんだと、他の作品も読んでみたくなりますね。

 本作では「ミュージシャンの歌は自分のために歌っている」という言葉が印象に残りました。逆に、相手を思い浮かべて演奏している歌の方が相手の心に響きます。中高と部活でやっただけという渡部君のサックスも、老人ホームの利用者のために演奏しているからこそ主人公の胸に届いたのでした。この辺りには作者の瀬尾さん自身の思いも込められていそうな感じもします。

 最後は、「俺」の好きな曲・Wake Me Up When September Ends(9月を過ぎたら起こして)にあるように、「もう無邪気ではいられない」主人公が立ち上がって終わります。おっさんの主人公に高齢化社会の現実と、できるなら見たくないタイプの「大人」な部分を見せつつも、全体的に綺麗にまとまっていました。テーマもはっきりしているので、誰にでも読みやすい小説だったと思います。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『江戸のジャーナリスト 葛飾北斎』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は千野境子さんの『江戸のジャーナリスト 葛飾北斎』を紹介します。中学生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 新しいパスポートや新・千円札にも使われる葛飾北斎。あらゆることに好奇心や探究心を持つ一方、人間や社会を冷静に見る観察眼もある。そんな人間・北斎を探っていく。

 

〇私なりの感想文

 葛飾北斎と言えば、歴史の授業で習った人で、『富嶽三十六景』くらいは聞いたことがあるかも。正直に言って葛飾北斎に対する私のイメージはそれくらいでした。

 本書では北斎の来歴を辿りつつ、彼の残した作品から「人間・北斎」を考察していきます。子供時代に奉公に行っていた貸本屋で本の挿し絵を見て学んでいたことは知りませんでしたし、若い頃に入門した勝川春章から破門されて苦しい時代を過ごしたことは意外でした。北斎の有名な作品は晩年のものが多く、『富嶽三十六景』も72歳の作品なのだそうです。美術のことはあまり詳しくないのですが、苦しい時も歳をとってからも常に絵を描き続けたのはすごいと思います。一つのことに対して生涯にわたって変わらず情熱を持ち続けるのは、単純なようでなかなかできることではありません

 北斎の作品は遥かヨーロッパの地に渡り、マネやゴッホといった印象派の画家たちに大きな影響を与えました北斎のタッチや構図を取り入れた作品が生み出され、そうした日本文化の流行はジャポニズムと呼ばれることとなります。雑誌LIFEの『この1000年で最も偉大な業績を残した100人』という企画では、北斎が日本人として唯一選ばれているそうです。世界で高く評価されている北斎について、地元である日本人があまり知らないというのもおかしな話ですね。

 本書で物足りないと思ったことは、肝心の絵が載っていないことです。せっかくなるほどと思ってもいちいちネットで検索しなくてはならないのは、やはり手間がかかります。もちろん著作権や出版の都合はいろいろあると思いますが、そこがもったいないと思いました。

 ひさしぶりに美術館に行きたくなる一冊でした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『海を見た日』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回はM・G・ヘネシーさんの『海を見た日』を紹介します。中学生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 ヴィクは、自分が優秀なスパイであるという想像の世界の中に生きていた。マーラは、英語が全く話せないためおそろしく無口だった。ナヴェイアは、二人の母親代わりをしながら、いつか自分が医学校に進むことを夢見て勉強していた。そんな彼らの里親であるミセス・Kの元に、アスペルガーを患うクエンティンがやってくる。ヴィクはクエンティンのママを探しに行こうと言い出し、マーラやナヴェイアも巻き込まれていく。4人の冒険が始まる。

 

〇私なりの感想文

 本作は、かなり独特な3人の語り手により描写されているのが特徴です。アスペルガー症候群を患い、ママとの思い出に囚われているクエンティン、ADHDにより現実から逃れ、空想の世界に生きるヴィク、3人の面倒をしぶしぶ見ながらも、今の生活からの脱出を夢見るナヴェイアの3人が、それぞれの視点からとある一日を語っていきます。マーラ視点だけは英語が喋らない設定のためか、本作にはありません。クエンティン視点は、アスペルガー症候群の影響で音や匂いに敏感な様子が描写されていますし、周りとうまくコミュニケーションが取れない感じも表現されています。ヴィクの視点では、空想と現実の区別がつかなくなっています。ナヴェイア視点だけは二人に比べると読みやすいものの、最初は全体像が見えずに少々面食らうかもしれません。ですが、読みづらさにも意味があるのではないでしょうか。もしかしたらアスペルガー症候群ADHDを患っている子供たちからは、世界はこんな風に見えているのかもしれません。そういう意味では、今年の課題図書の中で一番読みごたえがあって面白かったです。

 ある程度読み進めていくと、4人の置かれている絶望的な状況が分かってきます。4人とも親がいない孤児で、里親制度により偶然にミセスKの元へ集められただけでした。ミセスKも夫に死なれて失意の底におり、自分の事で精一杯でした。みんなつらい現状から目をそらすように現実逃避しており、初めはお互いに自分の都合で相手を利用しようとしていました。ですが4人だけで冒険するうちに、本当のきょうだいのように思い合うようになっていきます。特に『海を見た日』というタイトルの意味が回収されるシーンが非常に爽やかで印象的でした。そのころには物語に入り込んでいて、最初にあった読みづらさも全く気にならなくなりました。

 読んでいるうちはナヴェイアに感情移入していましたが、個人的にはヴィクが非常にかっこよかったです。一見妄想の世界で好き勝手にやっているようですが、新入りのクエンティンのために冒険を始めたり、疲れ切っているみんなに息抜きを提案したり、勘違いから傷つけてしまったナヴェイアのために体を張ったりと、常に行動力と優しさを持ち合わせています。どんな状況に置かれていても腐らずに誰かのために行動できるヴィクは、ある意味では精神的にも強いんじゃないかと思いました。

 子供たちだけで行動するときの、あの頃のわくわく感も思い出せた素敵な作品でした。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『セカイを科学せよ!』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は安田夏菜さんの『セカイを科学せよ!』を紹介します。中学生向けの一作となります。

 

 

〇あらすじ

 ロシア系ハーフのミハイルはとにかく目立ちたくなかった。しかしダラダラと活動していた科学部電脳班の部長代理に任命されてしまう。ある日、アフリカ系ハーフの山口アビゲイル葉奈が転校してきた。「蟲」好きを堂々と宣言し、カミキリムシのキーホルダーを付けてくる彼女に、クラスメイトたちは絶叫する。彼女は科学部生物班として活動することになるが、すぐに問題が発生してしまう。

 

〇私なりの感想文

 先日ご紹介した『ぼくの弱虫をなおすには』と同じく、人種問題を扱っている本作。これまで日本では話題になりにくかった人種差別ですが、近年はグローバル化の流れもあって注目されるようになった印象があります。引っ込み思案な白人系の男の子と積極的なアフリカ系の女の子という組み合わせが一緒なのが面白いですね。女の子が虫が好きなことも同じです。

 違っているのは、物語の舞台が日本であるという点です。白人系もアフリカ系も日本においては目立ちます。あからさまにいじめるわけでもないがよそ者扱いするクラスメイトや、規則を盾に責任を取りたがらない教師など、いかにも「日本人らしさ」が出ているのはちょっと皮肉にも見えます。グローバル化が進んでいる現在では、日本においてもこういった事例も多いのかもしれません。周囲から注目されないように目立たないように生きてきたミハイルと、周囲の目を恐れず自己主張していく山口さん。対照的な2人ですが、どちらも日本にも海外にも受け入れられなかった過去がありました。

 作中の「自分だけ色も形も違うから、生き物の分類に興味を持った」という山口さんの言葉に、一瞬虚を突かれる思いがしました。いつも強気に見える彼女も、実は自分と同じ悩みを持っていたことが分かり、ミハイルは驚きつつも共感していきます。飼育していたボウフラが逃げてしまい、殺処分される事件が起きますが、のちに事故だったことが判明します。最後まで明らかないじめっ子がいた『ぼくの弱虫をなおすには』とは違って、本作では「実は誰も悪い人間なんていなかった」というストーリー展開になっています。このあたりにもなんとなく欧米と日本の考え方の違いを感じますね。そこまで明確に敵味方を分けないのは、ある意味で「日本人らしい」解決策に思えました。

 日本では人種差別と言えば遠い国の出来事というイメージがある人が多く、特に初対面だと海外の人に対して身構えてしまう印象があります。アメリカにおける黒人差別のようにあからさまではないものの、「よそもの」に対する遠慮みたいなものも日本人らしさな気がします。東京五輪の招致の際に「おもてなし」という言葉が流行りましたが、あくまで「お客様」として接する分にはよくても、自分たちのテリトリーに入って来られると拒否反応を起こしてしまう。ですが、相手のことをよく知って一度仲良くなってしまえば人種なんて問題ではなくなるという話もよく聞きます。それが本作のタイトルにもなっている「科学する」ということで、対象の本質を追及し、相手を知っていくことなのだと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。

『捨てないパン屋の挑戦』紹介

 こんにちは。

 もうすぐ待ちに待った夏休み!夏休みと言えば、宿題の定番である読書感想文

 とは言え、あらためてまとまった文章を書くのはなかなか大変ですよね。ついつい後回しにして、最後に泣く泣くやることになるのはよく聞く話です。元学生の方には、今となっては懐かしい思い出かもしれませんね。

 というわけで、今月は今年(2022年)の課題図書に指定されている作品を読んでいきます。今回は井出留美さんの『捨てないパン屋の挑戦』を紹介します。小学校高学年向けの一作となります。

 

 

 

〇あらすじ

 田村さんは夜明け前の工房でまき窯の炎を見ながらしあわせを感じていた。パン作りとは、小麦のいのちや木のいのちを次へとつないでいくことだった。田村さんは子供の頃はパンがきらいだったが、いろいろな体験から環境問題に関心を持った結果、「捨てないパン屋」にたどり着いたのだった。

 

〇私なりの感想文

 副題には最近流行りのSDGsという言葉が入っていますが、田村さんがただやりたいことをやって結果に行きついた感じで、説教臭さはあまり感じませんでした。

 すごいと思ったのは、田村さんが常に挑戦し続けていることです。初めは就職がうまくいかずにパン屋の修行の修行を始めますが、日本のパン屋のやり方に疑問を持ち、モンゴルへ行っていのちの大切さを学びます。帰ってから実家のパン屋で働き始めますが、毎日大量のパンを捨てている自分に嫌気が差し、本場フランスへ修行へ行きます。天然酵母とまき窯を売りにしますが、今度はプライドを傷つけられた父や職人が辞めてしまい、田村さんは一人で何十時間も働くことになってしまいます。環境に配慮しながらも働き続けることができるパン屋を目指して、再びフランスへ向かいます。そこで今度はパン屋の働き方を学び、今では田村さんの店では一つもパンを廃棄することがないそうです。何度失敗しても、田村さんは諦めずに挑戦し続けます。なかなかに波乱万丈な人生で、飽きずに最後まで読めました。

 日本とフランスにおける価値観の違いも興味深かったです。日本では品質管理のために毎日大量の食品が廃棄されています。しかし、フランスでは少しくらい形の崩れたパンや焦げ付いたパンでも、商品として普通に売り出すそうです。また、日本では長時間労働が当たり前のようですが、フランスのパン屋では昼過ぎにはほとんどの仕事を終えてしまうそうです。さらに、農業大国のフランスでは有機小麦を使うことが普通だそうですが、食料自給率の低い日本では費用を抑えるためにはなかなか手が出せないのが現状です。こういうとき、海外では良くても日本ではうまくいかないよとすぐに諦めてしまいがちです。田村さんのようにそれらをしっかりと取り入れるのはなかなかできることではないと思いました。「捨てないパン屋」というタイトルに反して、日本での常識や積み重ねてきた過去は結構あっさりと捨てているところは、なんだか面白いですね。

 また、個人的になるほどと思ったのは「買い物は投票である」という考え方です。消費者が値段が少し高くてもいいものを買っていけば、供給側も潤って次第に値段が安くなっていきます。公的な選挙で何かを変えようとするのは難しいですが、買い物は誰もが毎日しなければならないことですし、相手も生活がかかっているので反応せざるを得ません。選挙ももちろん大切ですが、社会を変える方法は一つではないのだなと思いました。

 ここまで読んでくださってありがとうございました。